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幽霊も暴力も出てこない怖い実話5 パチプロ編

嘘です。若干の暴力表現を含みます。が! 痛みを伴ったり流血したりしませんので、安心して震え上がってください。
おっと、安心して震え上がるとは語義矛盾していますね。
と言うか、この話、以前にも書いたかも知れませんが、まあ、話を盛りに盛って再掲します。

南関東某所にある居酒屋の店長。彼をAとしましょう。
Aは居酒屋の店長になる前、パチプロをしていたんです。パチプロと言っても、朝から整理券をもらって行列に並びパチンコ台を攻略する、なんてことはしません。ゴト師、いわゆるチームを組んで不正を働いていたわけです。ターゲットとなる店を転々としながら。
そのゴト師チームのリーダーが、Aでした。

ある日、Aはチームの一人からこう言われます。
「Aの欲しがってる車がそこの中古車屋で売りに出されてるぞ。400万円で」
それを知ったAは早くても月内に買おうと考えたそうですが、その仲間がこう付け加えたんです。
「明日までにAが買わなかったら、あさって俺が買う」
モタモタしていたらその仲間が車を買ってしまいます。
あせったAは翌朝、くだんの車を買うべく現金400万円プラスアルファをポケットに入れて家を出ました。ところがその前に、ひと仕事する予定があったんです。
Aは仲間たちと共にターゲットとなるパチンコ屋に向かいました。

いつものようにAがパチンコを打っていると、と言っても不正を働いているんですが、ふと異変に気づきます。
見当たらないのです、仲間の姿が。どころか、他の客すら見当たらないのです。
「?」
思った瞬間でした。背後から布を被せられ、ガムテープで頭の天辺から爪の先までぐるぐる巻きにされてしまったのです。
そうです、Aは仲間たちに売られたんです。損害を被ったどこぞのパチンコ店オーナーが反社を雇って、ゴト師たちを一掃しようとしたんです。本当にいるんですって。金を取られたら取り返さずに、どうしてもコロしたいと思う人って。
仲間たちは反社の脅しすかしに屈服し、すっかり怯えて、リーダーを売ったわけです。
さて、ガムテープぐるぐる巻きで窒息寸前、かろうじて呼吸ができるほどの穴を、鼻と口に開けられます。そして数人に抱え上げられた後、聞こえたのはトランクの閉まる音。

何時間走ったんでしょうか? 車が止まり、トランクの開く音がすると、ガムテープが解かれました。
すると、目の前に大きな穴。森の中にぽっかり空いた大きな穴。
「目を開けるな」
低い声で言われたAは、すぐさまキツく目を閉じました。次の瞬間、ドン! 穴の中に蹴り落とされてしまいました。
森の中からのっそりとやって来たユンボが、彼に土をかけ始めます。穴を埋め始めます。
Aが涙と鼻水を流しながら土下座しても、謝罪しても、ユンボは土をかけ続けます。
Aはハタと、ポケットの中に400万円が入っていることを思い出します。右に200万円、左に200万円、尻にプラスアルファ。いちかばちか、400万円プラスアルファを出して、
「これで許してください! ゴト師は引退しますから!」
するとユンボの動きが止まり、「目を開けるな」と言う声がしました。
目を閉じたまま、Aは穴から拾い上げられました。

さて、瞼の裏を見つめるだけのドライブが始まります。
ようやく車が止まり、Aは降ろされました。
「60秒数えたら目を開けろ」
釘を刺されたAは、律儀に60秒を数え終えて、そしてゆっくりと目を開けました。
するとそこは、夕方の、車がさほど通ることのない田舎の道路でした。
翌日、Aは中古車屋へ、くだんの車を確認しに向かいました。店員が言います。
「その車は仕入れておりませんよ」
たしかに仲間たちはAを売りました。ですが、その中の一人が「明日お前が買わなかったらあさって俺が買う」と嘘をついて、助けてくれたんです。

400万円プラスアルファは失いましたが、彼の命は失われずに済みました。たった400万円プラスアルファ、安い命じゃないですか。
そして今頃、どこぞのパチンコ店オーナーは、彼が土の中に埋まっていると思っていることでしょう。
逆に言えば、金を払えず、あわれ、土の中に埋まっている人たちがいるということです。

でもって、その400万円プラスアルファで命を買ったAこそ、今の私の旦那です。
嘘です。

気づきましたか? この文章は、「嘘です」で始まり「嘘です」で終わっているんです。←この一文さえなければ。

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