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手紙 


いつだって、誰かに手紙を書いている。小学生の頃、又従姉妹と始めた文通。中学生の頃、親友と授業中に交換した紙切れ。字は汚くても、筆は速かった。たくさんの人たちとの、いくつものやりとり。返るものも、返らないものも、孵るものも、孵らないものもあった。わたしと同じように、ずっと誰かに(あるいは、宛先のない)手紙を書いている人もいるだろう。そうだ、わたしたちは、いつだって手紙を書きたい。届くものも、届かないものもある。それでも。

手紙は、相手に届けるものである以上に、読まれるためのことばを生み出すことがどうしても必要だと感じるからこそ、成し遂げられる行為だ。そして五月の紙飛行機のように、この手紙はあなたのどこかに着地する。決して自在に空を飛ぶことが出来るわけではないそれを受け止めていただいたことに、心から感謝したい。


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まもなく出版となる、わたしの第一詩集『追伸、この先の地平より』のあとがき。「手紙」と題して、わたしは上記の文章を書いて載せた※注。

ものを書くということは、一体全体どういう衝動なのだろう。長年、そのことについて答えが出なかった。今もおそらく出てはいない。けれど、詩や小説を書こう、書きたいと思うときに、誰かに手紙を書くような衝動が確かに在る。いつも、そのことを思う。

そして、実際の手紙を含めた様々なものを綴るとき、その受け取り手である「あなた」のことを考える。あなたはたくさんいる。あなたは様々なものでもある。けれども、きっとその作品が目指している「あなた」は、きっとただ一人だ。「あなた」に読んで欲しくて書いた。「あなた」に読まれて初めて、意味を持つ文章になれる。思うようなかたちで届くかどうかはわからない。けれど、もし手に取ってもらえたら。その巡り合わせだけでも、素晴らしいことなのではないかと思う。

インターネットの海の中、この小さな「手紙」もまた、ボトルシップのようにどこかへと流れてゆく。偶然、「あなた」の目に飛び込む。着地するという事実を、ただ在りがたく思う。時折、奇跡のような応えが返る。そのことに言祝がれて、またわたしは明日も手を動かし、返信を生み出そうとするのだろう。

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以下の企画をお見かけし、「手紙」への思い入れから、是非にと思い参加させていただきました。ありがとうございます。

そして、第一詩集『追伸、この先の地平より』を、2021年11月に刊行します。もしお手にとっていただける機会がありましたら幸いです。

※注:「手紙」(本エッセイ上部、詩集あとがき部分)は、第29回詩と思想新人賞受賞のことば「手紙」に加筆修正を行って作成しています。この部分の初出は雑誌『詩と思想』2020年12月号です。

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