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【小説】『フラッシュバック』#32

 天使は深夜に、ブラウン管でケーブルテレビを観ていた。
 
 「…シンクロニシティの定義ですが、名付け親であるユングは「二つ以上の出来事が重要な意味を持って同時に起こること。そこには単なる好機の到来以外の何かが関わっている」と言いました。意味のある偶然の一致。
 例えば、昔流行ったある歌を口ずさんでいて、その後テレビをつけたら、たまたまその歌が流れたり。きのう夢に見た人に、突然街でばったりと遭遇したり。そういう些細な偶然から、それこそ人生を左右するような出来事まで、ある種シンクロニシティといえます。ある人との出会いや、本の中の一節、ある決断の基になったきっかけなど。より深淵な、人に大きく影響を及ぼすような出来事まで。
 そういう転機は、後になって初めてわかることが多いですが、でも「なぜ今、自分はこれに出くわすんだろう?」とか「この人は、なぜ今、私にこのことを伝えるんだろう?」という、意味深に感じたり不思議な出来事というのは、つねにたくさんあると思うわけです。
 今この瞬間もそうかもしれませんが、「なぜなんだろう?」と、意味を感じたとしたら、それは必然だと思うのですね。出来事自体は偶然だとしても、己が意味を感じるのは必然ではないかと。すべてに意味や理由があると捉えると、見える世界が違ってきます。
 ひも理論やホログラム理論など、世界はすべてつながりあっていると捉えた方が説明がつく理論もありますが、一見バラバラに見える世界につながりを持たせてくれるのが、先程言った個々人が感じる「意味」ではないでしょうか。ジャウォースキーは、「この世界に現れたがっているものがあり、世界が望むとおりに世界を実現させる。その流れに身を任せると、身の周りのことは不思議とうまく回りだす」のだと表現しました。
 世界の流れに身を任せる、これこそまさにフローですね。そうすると、シンクロニシティが紡がれていくと言っているんです。これが、今回の論点です。つまり、自分のあるべき方向に向かって、シンクロニシティは起きるのです。自分が意味のある方向に向かっているからこそ、もしくはあるべき方向に気づかせるために、意味のあることが起きるというのですね。人生が捨てたものではないからこそ、そういう不思議なことが起きると私は思います。どの視点から見ても救いようのない人生など、あるはずはないからです。しかし、自分のあるべき方向とは何だろうと、度々思い悩むのも事実です。そのときに、グノーシスの発想が生きてくると思うのですね――」
 
 最後にテロップが流れた。
 「出演者によって提供されたいかなる見解又は意見は、当該出演者自身の見解や分析であって、当番組の見解、分析ではありません――」

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