『天使の翼』第10章(108)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~
「そんな事はない。法律の事や、人々の生活、考えている事……サンス大公国の実情が、短い時間で数多く分かってきた。僕らは、あちこち遠回りしているようで、着実に核心へと迫っている」
嘆くわたしへのシャルルの言葉は、わたしの心に明かりを灯すだけの力があった。わたし達の使命は、通常の諜報活動とは全く違う、誰も試みたことがないようなやり方で前進しているのだ。
――いつの間にかうとうとしていたのだろう。わたしは、シャルルに腕を揺すぶられていると、最初分からなかった。ハッとして目を覚ます。
「飛行艇が着水姿勢に入っている」
シャルルに言われて窓の外を見ると、下界は、もうすっかり靄が晴れて、幅1標準キロ程の水路状の細長い湖と、密生した熱帯雨林が広がっていた。
「チャンスは一回きりだからね」
「えっ?」
「良く考えたら、この飛行艇は、僕らを降ろしたら、すぐどこかへと飛び立ってしまうに違いない――」
「……」
「――目立ち過ぎるもの」
「つまり――」
「つまり、チャンスは、着水して人質を降ろす時だけだ」
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