『アブラゼミを捕食するスズメバチ』~ファジーな食物連鎖~
本稿トップの写真は、私が自然の撮影によく訪れる白金台の国立科学博物館附属自然教育園で8月20日に撮影した『アブラゼミを捕食するスズメバチ』である。一言断っておくと、これは意図して撮ったものではない。望遠レンズで撮影したのだが、スズメバチと分かって、私は早々に退散した。スズメバチは怖いから、どんなに迫力があっても、普段は撮影の対象にしないようにしている。実際、このスズメバチ、獲物から肉団子を作りながらも、時折周囲を警戒するように飛び回っていた。
後で家に帰ってこの写真を見ながらつくづく思ったのは、肉食性の昆虫、クモなどの節足動物の捕食対象、獲物が、捕食者よりかなり大きいケースがままあるということだ。私が過去に撮影した事例から、二つだけ挙げてみよう……
最初に挙げたのは、葉の上などでジッと待ち伏せし、通りかかった昆虫などを急襲、鋭い口吻を突き刺しその体液を吸う獰猛なムシヒキアブの仲間、昆虫界屈指の強力なハンターであるシオヤアブである。御覧の通りアゲハチョウのような大きくて高速で飛び回るチョウにも襲い掛かる。
(詳しくは、拙稿『アゲハを狩るアブ』~食物連鎖と自然への感謝~をご覧ください。)
そして、これも見事なハンティング、キタキチョウと思われる中型のチョウを捕食しているクモである。私も見事に騙されたが、最初このチョウを撮影しようと何回かシャッターを切って、チョウがピクリとも動かないことに気付いた。近付いて目を凝らして初めて分かった次第。このクモは、ミソハギという多数の花が花穂になって咲く中に隠れ、待ち伏せして、チョウの首筋にガッチリと食らい付いたのだ……
こうして見てくると、捕食される側は、体が大きくても決して安心はできないことが分かる。もちろんサイズが大きくなれば力も強くなり逃げ切れる可能性も出てくるかも知れないが、必ずしもその方向に進化するのかは分からない。昆虫の世界では、体が大きいだけでは、生存のための有力な資質あり、とは言えないようだ。
この食物連鎖の流動性、何が何に捕食されるかファジーな点は、肉食昆虫同士ではさらにカオスになる。私はまだそのような肉食昆虫同士のバトルを撮影したことはないが、例えば、本稿にも登場したスズメバチとシオヤアブ、スズメバチの方が強そうにも思えるが、シオヤアブがスズメバチを捕食する場合もあるそうだ。ようするに、どちらが先に相手の急所を押えるか、ということであり、そこには急襲、奇襲の要素があって、肉食昆虫同士の食物連鎖はまさにカオスと言ってよさそうである。
こうしてみてくると、昆虫の世界では、食物連鎖はかなりファジーであり、常に何かが何かを捕食するとか言った絶対的なものでは決してなく、相対的、流動的なのだと思われる。そして、この生態の多様性は、昆虫の種の多様性、爆発的な進化とも繋がっているのかも知れない。
さて、ここでいつもの『随想自然』にならって人間の世界を見てみるなら、人間界内部の食物連鎖、競争のピラミッドにおいても、固定化、絶対王者や独り勝ちといった状況が長く続くことは、ダイバーシティ、インクルージョンによるイノベーション、進化を推進・継続するうえで、決して好ましい状況とは言えないのではないか。
昆虫の世界を見ていると、人間の社会が見えてくる。まさに、昆虫すごいぜ……おっと、これは某人気テレビ番組のパクリだ……「昆虫アッパレ!」とでも言っておこうか。
【以上、『随想自然』第14話】
(インスタグラムhttps://www.instagram.com/angelwingsessay2015/で、主に東京都心で見れる自然の写真を紹介しています。)
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