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《親ペン雑記#10》リスクとマナー~スマホという名の新しい習慣~

 街中でふと異様な人の動きに気付くことがある――まるで私などいないかのように真っ直ぐと狙いを定めたかのように接近してくる人影——。歩きスマホだ。イラっとする。自分が避けずとも周りがどいてくれるとでも思っているのか。何と愚かで無作法な……。ふと、このままぶつかってやろうか、などと悪魔の囁きが耳元に聞こえる。そんな囁きを聞いたことのある方は多いだろう。悪いのは向こうじゃないか……。だが、結局、妄想から覚めて、文化人たる自分の方で不愉快な回避行動をとる羽目になる(妄想のままに本当にぶつかれば、相手は過失かも知れないが、こっちは故意にぶつかったことになる)。
 少し前の日経電子版の記事【「歩きスマホ規制必要」約7割】では、そんな歩きスマホに対して、規制論者が圧倒的に多いことが報告されている。


 思うに、人間は『情報』に貪欲な生き物だ。それは本能であり、人間の性(さが)である、と言ってよい――噂の広がる速さを見よ――。
 テクノロジーの発達は、そんな人間に『スマホ』という稀有な贈り物を届けてよこした。掌の上で情報が遣り取りできる前代未聞のツールだ。便利なことこの上ない……。過度に依存する人が出てきても何ら不思議はない。


 しかし、スマホという名の新しい習慣は、当然、文化としては未熟である。スマホを使う際の作法、マナーがまだ確立されていないのである。
 人が人と一緒に暮らしていく、社会の一員として、リスクを回避し、互いに不快になることなく円滑に生活していくための知恵が、マナーである。


 歩きスマホによる注意散漫は、周囲にとっても、自分とってもリスクの多い危険な行動だ。そのリスクに直面した社会が、どうやって、リスクを回避するマナーを形成していくのか、これは、マナー形成という社会現象を研究する、『マナー形成史』の現在進行形の壮大な実験と言ってもよい。

 


#日経COMEMO #NIKKEI

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