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『天使の翼』第11章(45)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 呆然とする大公を前に、そんなことになったのは、その前提として、公女には、大公、あなたから愛されているという認識がないのです……もし、公女が大公から愛されており、嫌われてなどないと、父大公との間にしっかりとした人間的絆があったら、父を母の死の責任者などと思い込みはしなかったろう……もっと言えば、父との絆の欠如が、公女の母への依存の源である――
 「今回の件の責任は、大公、殿下にありまする」
 その場にいた者はさぞ肝を冷やしたろうが、大公は、直感的にこれを受け入れたというか、得心がいったと言うべきか、はたまた、真実を突き詰めないと娘は帰ってこないと思いつめたのか――
 「だとすれば、教授、これからどうなると思われる?」
 教授は、まず第一に、決して100%そうだと言うつもりはないが、そしてまた、あらゆる可能性を考慮して警戒を解いてはならないが、この件は、公女の自発的な家出である、と宣言した。
 「公女はどこにいるのだ?誰がかくまっている?」
 大公は、急いた。
 これに対する教授の回答は、意外なものだった。
 「公女は、必ずや変装しておられる」
 と、言うのだ。
 公女は、別人に成りすまして、どこかに潜伏している。その周囲の者は、彼女が公女デラだとは、チラとも思いはしないだろう……
 しばし絶句した大公は――
 「何故そこまでして……」
 「公女は、死ぬ気はない、ということです」
 「――」
 ……自殺目的の家出であったなら、――考えるだに恐ろしいことだが――もう事は遂行されてしまっているだろう。

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