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『天使の翼』第10章(8)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

  ……どれだけ時間がたったろう、二人の反応が気になりだした頃、突然、老人が、天を仰いでからからと笑った。
 「……これはとんでもない不始末をしでかしてしもうた、どうか許して下され」
 老人は、マリア=アンナの方へ大儀そうに手を振った。
 マリア=アンナが、慌ててわたし達の拘束を解きにかかった。レディー・ファーストの原則に反して、何故シャルルの方から解いているのかは、この際深く考えないことにする……
 老人は、わたし達が再び自由の身になるのを待つ間、下をうつむいて、――ちょっと見た目には眠り込んでしまったようにも思えたが――必死に考えを整理しているようだった。
 再び面を上げた老人は、わざわざ椅子から立ち上がって、今一度わたし達に詫びの言葉を述べた。
 「お二人に恐ろしい思いをさせてしもうた。……目的の為には手段を選ばぬ、と言うのは、とてつもない大きな代償を払うことになるのだ、と分かり申した……敵と同じ人間に成り下がってしまうのだ……」
 老人は、瞳に涙を浮かべていた。

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