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『天使の翼』第10章(70)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 「他にはどんな条件があるの?滅びないための条件は?」
 ローラが、甘えた声でシャルルに聞いていた。
 「ぬいぐるみ、です」
 「えっ?」
 これには、わたしを含めて一同唖然とした。
 「『ぬいぐるみ』ですって?」
 シャルルは、芝居っけタップリに、重々しく頷いて見せた。
 「人間の子供は、ぬいぐるみが大好きです。でも、他に、何かぬいぐるみに類したものを愛好する生物がいるでしょうか?もちろん、生まれたての生き物に、母親ならぬ非生物を母親として刷り込むような実験とは別ですよ。ぬいぐるみ、といって馬鹿にすることはできないのです……。そもそも、ぬいぐるみのような、実在するか、空想上のものであるかを問わず、生き物の似姿をこしらえることのできる生物が存在しないのです。それでは、何故ぬいぐるみがそんなに重要なのか?それは、ぬいぐるみを愛する子供の心が、実は、宗教上の偶像崇拝と同質であり、原点だからです。人間は、虚実を問わず、実体――姿のないものを愛するのが困難ですから、偶像は、その宗派の布教上きわめて有力なツールとなります。そして、これが大切なことですが、偶像崇拝は、自然と、次の段階である形而上学的な唯一神の信仰へと移行するのです」

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