見出し画像

『天使の翼』第11章(7)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 どうやら、アンコーナの山岳地帯では、生物の進化は、飛行性のそれへと有利に働き、マウンテン・デビルが、その食物連鎖の頂点に君臨している。人類が入植する以前は、彼らこそがこの星の主人だったのだ……少なくとも海を除いた陸では……
 「マウンテン・デビルは、一体何のために狩られるの?食用?……彼らに知性はないの?」
 「最初の仮定に対する答えは、半分イエスだ」
 「えっ?」
 「食べるというか、口にすることには変わりないけど、薬なんだよ」
 わたしは、しばし黙してしまった。
 「……どの部分を薬にするわけ?」
 「大体予想は付くだろ――この星の生物進化は、いわゆる地球型で、ほぼ地球原産生物群の腎臓に相同の部位だよ」
 わたしは、そんなことはないだろうと思いつつも、聞いていた――
 「もちろん、片方だけ摘出手術をして、後は自然に帰してあげるのよね?」
 シャルルは、肩をすくめた――No!だ。
 わたしは、言わずもがなの言葉を口走っていた――まるで、シャルルがこの悪習の張本人でもあるかのように――
 「腎臓を取るためだけに殺すなんて、これほど残酷なことはないわ!」
 「簡単に言ってしまえばそういうことになるけれど、もう少し比較文化学的な見方をしてあげないと……たとえば、人間が、自分の周囲の人間の腎臓を食する目的で連続殺人を犯せば、これは、誰が見ても『おぞましい』ことだ。一方で、人類の宇宙時代の開闢期に、宇宙のノアの箱舟に乗って人類と共に旅立った地球原産生物の、たとえば、ニワトリのレバーを食べることを、『おぞましい』と表現したりはしない――」

この記事が参加している募集

宇宙SF

SF小説が好き

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?