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『天使の翼』第11章(41)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 ――デラは、母が亡くなってからちょうど一年目の夜、宮城を出て忽然と姿を消し、一ヶ月近く行方をくらました。
 一般家庭の子女が行方不明になったりしたら、その周囲にとってはもちろん一大事。まして、この場合は、大国の世継の第一公女である。それが、一日たち二日たっても見付からない……。文字通り上を下への大騒動となった。
 まず、大公――
 件の大公も、さすがに自分の血を分けた子は可愛いと見える。事件が落着するまで、傍目にも落ち着きがなく、普段では考えられないことだが、純粋な喜怒哀楽が面に出た。
 当時公女の教育係だった者達は、恐怖におののいた。最初こそ素直に公女のことを心配したのだが、それは、やがて我が身の心配に変わる。
 教育係は、一人ずつ呼び出されて、SSIP立会いのもと、大公じきじきの尋問を受けた。
 恐怖に支配された彼らは、一人として参考になるような情報を語ることができず、皆一様に「何も知らない。変わった様子はなかった」と答えたらしい。うっかり意見めいたことを言えば――たとえば、単刀直入に「公女は男として育てられるのを嫌がっていた」と言ったりしたら、どうなるか……

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