見出し画像

『天使の翼』第10章(99)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 「本当にうまくいくのね?」
 ローラだった。今やミラー氏の犯行がうまくいく事が、我々の身の安全を保障しているのである。
 「まかせとけって。これだけの事をしでかそうってんだ――十分に計画は練ったし、もとより命懸けの覚悟だ……」
 わたしとシャルルは、一つ窮地を脱した、と思ったら、またまた別の罠の中に飛び込んでしまった……
 
 窓の外に広がる風景が、徐々に輪郭を明らかにしながら、陰影のコントラストを強めていく……。
 朝焼けに照らし出された眼下の湿地帯は、ところどころに靄のケープをまとって、こんな時でもなければ、我を忘れて見惚れてしまいそうな静謐に包まれている。
 わたし達は、もう数時間、旧式の水上飛行機の、長年タバコを吸ってきた老人の呼吸のように頼りなく、そして、せわしなく音域を変えるエンジンによって駆動されるプロペラに揺られていた。この辺境の星では、エアカーは、滅多に見られない贅沢品で、他の星でならスポーツ用のおもちゃに過ぎないレトロな水上飛行機が、主要な交通手段の一つとなっている。豊かな陸水が複雑な地形を織り成す大陸にとって、それは、社会進化論的に最善の選択なのかも知れない――あのミロルダ星で、洞窟隊商路が特別の位置を占めていたように……

この記事が参加している募集

#宇宙SF

6,038件

#SF小説が好き

3,127件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?