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『天使の翼』第11章(21)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 「『ずるい』といえば、大公国にとってナショナリズムは諸刃の剣だよね。――国民を鼓舞するには有効な手立てだけど、その野心を帝国に疑われるという意味では、あまり顕在化しないほうが……おおっぴらに具体的な言葉で宣伝しない方がいい……」
 シャルルが、話の方向性を慎重に選ぶ様子で、一つの初歩的な見方を披露した。『野心』という言葉が入っているから、当然ローラの先の見解に従えば否定的な答えが返ってくるだろう――問題は、その中身であり、シャルルは、その辺をもっと突っ込んで聞こうとしているのだ。この初歩的な見解は、シャルル自身の考えとも微妙に喰い違っている。大公国が秘密の聖薬ストックを察知されていると前提していなければ、不可能な戦争に対する野心など極端に言えばいくらでも声高に主張してよい――帝国の側が本気にしないから――訳で、一方、そういうこともありうるという前提では、もはや、ナショナリズム云々を議論すること自体無意味となる。いつでも戦端を開ける状況では、表面的な戦争熱がどうあろうと関係なく――本当なのか、嘘なのか、嘘の嘘なのか分からない――、やるかやらないかの現実だけが突きつけられている。好戦的かどうかといったようなことでは、本心は分からないのだ……

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