見出し画像

『天使の翼』第11章(50)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 「政府は、その後、繰り返し、繰り返し、執拗に同じメッセージを流したわ。それ以外何も特別な手は打たなかった、と言ってもいい位……」
 「……そして、公女は、姿を現した?」
 ローラは、頷いた。
 「それは、文字通り劇的な登場だったわ。大公が分家の伯国の国主を迎えて宴を張っていた、その会場に、急に末席の方が騒がしくなって、人垣が割れたかと思うと、長かった髪をすっかり短かくして、修道女の衣装に身を包んだ公女が闊歩してきて、玉座の前へと進み出た……大公は、最初呆気に取られていたのだけれど、見る見る喜色に顔が赤くなって、目にはぽろぽろと涙がわきあがって……後にも先にも、大公の涙なんて見たのはこれっきり!……彼は、獣のように『デラ!』と叫ぶや、玉座を転げ落ちるようにしてデラに飛び付き、ぎゅっと抱きしめた。抱きしめた彼の体は、遠目にも分かるほどぶるぶると震えていた。大公の残忍な性格を知っている者も――つまり全員ってことだけど――少しばかり心を打たれたかも……」
 肝心の公女は、そんな父大公の姿にも全く心を動かされた風はなく、無表情に、なすがままにされていたそうだ。抱き返す訳でもなく、両脇にだらりと垂らしたままの手が、全てを物語っていた。
 たまたま居合わせたSSIPの長官が進み出たが、大公の手の一振りで下がらせられた――SSIPが公女を取り調べるようなことはありえない、という事だ。
 大公は、主賓のことも忘れて、なかば本能的に質問を発していた――
 「一体どこに行っていた?」

この記事が参加している募集

#宇宙SF

6,010件

#SF小説が好き

3,100件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?