『天使の翼』第10章(94)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~
「ウィル、大公が金を出すと思っているのか?」
事が起こる前となんら変わった様子のない、冷静なクレー准将が言った。
「そこは、俺も思案したさ。――よく考えてみな、今の情勢で、誘拐事件がおおっぴらになったら、政府としては、まずくないかね?なにしろ、一惑星政府の首長が、簡単に誘拐されちまったんだぜ。他にも同じような事件が、次々と連鎖反応のように起こるだろうさ。もちろん、反抗分子という建前があるから、金だけじゃなく、理不尽な法の一つや二つを撤回するよう要求する、という寸法だ」
「ウィル、何で急にこんなことを!お金なら使い切れないほど持ってるでしょ!」
ローラが、さすがに普段より高い声で問い詰めた。
ウィルは、肩をすくめた。
「ちょっとばかし、やばい筋とトラブってよ……実は、このままだと、俺の命が危ねえんだ。詳しいことは聞かぬが花だよ、お嬢ちゃん……この先一生安眠できなくなるかも知れねぇぜ」
ローラは、口をパクパクさせるだけで、黙ってしまった。
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