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『天使の翼』第10章(89)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 「委員長は懇意にしている館長だから、後はもう私のものだったわ!」
 ローラ教授――彼女は、市井の考古学者ではなく、歴としたグラン・サンス公立大学の教授だった――は、部下である発掘調査のプロ、技官達に招集をかけ、完全に身内だけでその秘密部屋を掘り返した。実際には、各種の地下埋蔵物探査装置や精密ドリルを駆使して、わたしのイメージでは、さながら銀行強盗のように……
 地下に姿を現したのは、隠し部屋というより、隠し戸棚、といった趣の1標準メートル×2×3程のスペースで、例のガラス封印型の文書が900枚弱発見された。
 ローラの予測通り、第一王朝時代のサンス球状星団植民史揺籃期を飾る文書群だった。
 第一王朝期のサンス球状星団は、その滅亡の時まで、少なくとも形の上では植民星省領であり、貴族領化してはいなかったが、実質的には、世襲化した総督達――9人のファミリーがしのぎを削っていたと言われる――が割拠する状態と化していった。そして、そのことこそが、サンス大公家による星団全域の簒奪を正当化するレトリックに使われている。その文脈からすると、もともと、大概の文書は、特に労せずとも、大公国正史に嵌め込むことが可能だったと考えられなくもない。

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