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『天使の翼』第10章(53)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 例によって、シャルルは、細かい点までいろいろと分析していた。
 たとえば、伯爵の船の救難信号の受信態勢がきわめて精度の高いものだった場合、宇宙空間のどの方角からその電波が来ているか、おおよそでも判断できるものなのか?その場合、信号の伝える情報がハロの方角を指差しているのに、電波が銀河の核の方向から来ていることになり、完全に矛盾する。
 「――その点だけから帝国の関与を推論するのは相当の飛躍だし、そもそも、GTCギャラクシー・テレコムのワーム・ホール電波道は、立体的なネットのように銀河系を覆い尽くしている。電波の飛来方向にその電波の発信源がある確率なんて、かぎりなくゼロに近い……つまり、公国の捜査当局は、結局、信号の内容、この場合はハロの一点を拠り所に行動を起こすきり手がない」
 また、信号が、予定外の着地によって作動するようプログラムされていた点については――
 「合理的と言えば合理的で、何もない宇宙空間で発報したところで、捜索は困難極まりない。どこか天体に不時着したようなら捜しようもある、という訳だ。大公国の支配階級のメンタリティーを読み解く、ささやかなキーの一つだね」

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