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『天使の翼』第10章(1)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 銀河系という一つの集合体を見た時、ブラック・ホールの持つ意味は、きわめて重要である。何故なら、ブラック・ホールの作る空間のヒモ状のねじれは、ショート・カットとして作用し、系全体をシンクロさせて、宇宙に数学的な調和をもたらしているのだ……(地球連合政府時代の純粋数学者)

 
 わたしとシャルルは、サンス大公国の域内に入ったら、何よりもまず、その場の空気――人々の表情や、一般市民と支配階級との関係、街に出れば自然と分かる経済の状況、等々――に親しみ、その体験を基盤にして、サンス謀叛の秘密に切り込んでいく、という考えでいた。その際、吟遊詩人としての立場を最大限活用する、という事だ……
 しかし、この状況は、いきなり得体の知れない集団に身柄を拘束されてしまった状況は、おそらくわたし達の秘密の使命とは何の関係もないのだろうが、絶対に何とかしなくてはならない。……そう思うと、恐怖感よりも、難局を切り抜けなくてはならない、というポジティブな緊張感が、わたしの心の中に沸きあがってきた。
 わたし達は、先刻の広間の中央に置かれた二脚の椅子に、テープでがんじがらめに――別の言い方をするなら、いかにも素人臭く――縛り付けられていた。
 猿轡をされているので、わたし達は、視線を合わせることはできても、言葉を交わすことはできない。謎の男達は、そして、マリア=アンナも、猛々しい津波が引いていったかのように、今は、部屋にはわたし達二人だけだ……5分経ったのか、10分経ったのか……

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