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『天使の翼』第10章(3)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 マリア=アンナ、そして年配の男性が広間に入ってきた時には、わたしも、そしてシャルルも、気力を取り戻して、最大限の注意力をもってして臨んでいた。
 「猿轡までしたのか!」
 この第一声からして、多くのことをわたし達に示唆していた。
 男は、小さく叫んで顔をしかめた後――もっとも、長年ラプラスの陽の光を浴びて焼けた皺だらけの顔に、微かに漣が立ったようなもの。よほど観察眼に優れていなければ見逃してしまう表情の変化だ――、マリア=アンナの方にいらいらと手を振った。
 「彼らは彼らで必死だったのです」
 言いながら、マリア=アンナは、わたしの猿轡を細かい手作業――織物だろうか?――に慣れた指さばきで外し始めた。男達の乱暴な、力任せの引き結びが、魔法のように解けていく。
 「馬鹿な!吟遊詩人だぞ!商売道具の口に手荒な真似をする奴があるか」
 どうやら本気で怒っている。
 男は、大儀そうに部屋の一隅へと歩いていくと、一脚の椅子を運んで、わたし達の真正面になるように置いた。まるでこれから親しい者同士で語らおうとでも言うような近しい距離を置いて……大きなため息をついて腰を下ろした様子は、何か病を患っているのだろうか……

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