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『天使の翼』第11章(47)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 その頃には、デラの行方不明は、グラン・サンスのみならず、それこそ全公国民の知るところとなっていて、一体何が起きたのか、いやがうえにも国民の関心を掻き立てていた。何も知らない国民の想像の及ぶ範囲は限られており、何かの事故に巻き込まれたのか、反政府組織あるいは――およそ考えにくいことではあるが――犯罪組織に誘拐されたのか……異常者の仕業とも考えられる。公女が自らの意思で家を出た、と看破した報道機関は、一つもなかった……
 「実に巧妙だ――」
 シャルルが言った。
 「――誰も家出だと思っていなければ、それだけ見付かる公算が低くなる……目の前に公女が居たって気付きやしない!」
 わたしは、デラという女性が、動物的な狡猾さ、とでもいうべき能力の持ち主で、どんな状況にもやすやすと溶け込んでいく様を思い浮かべた。それは、生存本能などと言う基本レベルの問題ではなくて、鋭い人間観察、状況把握能力、危険を察知し機敏に回避する能力、そして、演技力だ。……人は誰しも人前で演技するが、自分を架空の人格に仕立て上げて、周囲に溶け込んでしまう、というのは、全く別の次元の問題だ。

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