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『天使の翼』第10章(100)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 湿地帯を海に喩えるなら、標高は低いが島のように盛り上がった林が散見されるようになり、どこまでも続くかに思われた光景にようやく変化の兆しを感じ取ったわたしは、その事をシャルルに告げようと顔を上げた。
 シャルルもちょうど言いたいことがあったらしく、わたしのことを見ていた。
 「問題は二つある――」
 状況分析は、シャルルのお家芸だ。
 わたしとシャルルは、他の人質と離れた、貨物庫の奥に押し込められていたので、プロペラの騒音もあり、特に声を潜めて話す必要もなかった。手足も拘束されてはいない。
 「――一つは、僕らの端末の件だ」
 わたし達は、手荒な扱いこそされなかったものの、当然のことながら、外界との糸であった携帯端末を没収されていた。
 「端末のセキュリティーを破ることは、彼らの目的ではないし、恐らくやろうと思ってもできないだろう、君のも、僕のも」
 携帯端末は、所有者の体のいくつもの特徴を識別し、それに暗証番号が加わるから、事実上難攻不落だった。しかも、所有者に解除を強制しようとしても、その緊張を感知して、回路をブロックする仕組みが搭載されている。さらに、何日も使用されずに使用者の肉体から離れたところで放置されていると、予め設定した日数を経過した時点で、自動的に記憶回路が全て破壊されるようになっている……

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