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『天使の翼』第10章(90)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 まして、ローラの発見した文書群は、初期植民時代に属するもので、全てにわたって、巨大官庁植民星省がリーダーシップを取り、名だたる探険家もほぼ全員植民星省のおかかえ官僚だったから、発見された文書が大公国政府によって没収されるのではないか、という最初の危惧は杞憂に終わった。
 とどめは、サンス植民星域の礎を築いたとされるサンス星団本庁長官が、第一王朝の皇子だったことだ。この忘れられた事実の発見が、第一王朝の流れを汲むと称するサンス大公家にどれ程歓迎されたかは、想像に難くない……今日の夕刻、ペンテコステ家でのことをシャルルと話し合った時にも、大公国政府が、宣戦の大義名分と受け取られることなく、国民の間にナショナリズムの炎を燃え立たせるのは至難の業だ、という話題が出た。ローラの発見がどの程度それに寄与したかは分からないし、ナショナリズムと言っても、サンス大公家抜きのナショナリズムだって在る訳だ……でも、こういうことの積み重ねがやがて一つの大きな潮流となる可能性を秘めている。事態の進展は急で、その余裕はなさそうだったけれど……

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