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『天使の翼』第10章(9)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 「……良かった、今夜ここへ来たのがあなた方で……わしは、もう少しで大罪を犯すところじゃった」
 そう言って、老人は、急にいくつも年を重ねたようなよろよろとした足元でわたし達に歩み寄り、両膝をついて、わたしとシャルルの手を取った。
 「申し訳ない……申し訳ない。恐ろしかったであろう……」
 わたしは、シャルルと顔を見合わせた。どうやら、シャルルの推理して見せた通り、この老人のグループは、大公国政府の出先機関であるラプラス星庁に対して、テロルを行おうとしていたらしい。
 テロルを行なうという事は、目的のためには手段を選ばず、すなわち無差別かつ無慈悲な暴力で持って敵を制圧するということだから、そのような行為に手を染めた瞬間から、その者は、良心を捨て、人間性を捨てたことになる。それは、つまり、たとえ目的を達成したとしても、その目的そのものに、もはや何の価値もなくなってしまっている、という事だ。……問題は二つあるように思う。一つは、激しい迫害にあっている時に、テロルという手段に訴えずに済ませられるか、たとえば非暴力抵抗運動のような別の道を探し出すことができるか、という事。そして、もう一つは、国家の行う戦争行為とテロルとの間に、実質的な違いはないのではないか、という疑問……悪と対抗するために、許される戦争行為があるとすれば、それは、どのような条件を満たしている時にありうるのだろう……

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