『天使の翼』第10章(6)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~
「……」
今や、二人は、完全に圧倒されて、押し黙ってしまった。
「僕を人質に、僕の命と引き換えに、フランク長官をデイテに暗殺させるつもりなのでしょうが、はっきりとお断りする」
これでは、どちらが縛られている方なのか分からない。老人は、口を酸欠状態の観賞魚のようにパクパクさせた……わたしも、そうしたい所だ。
わたしは、何故かマリア=アンナと視線を合わせた。彼女の目は、一体わたし達は何者なのか、と問うていた。
「お父上、そして、マリア=アンナ殿――」
シャルルは、まだ紹介もされていないのに、老人を、マリア=アンナの父と断定していた。
「――僕は、あなた方を、熱き心を持った良識の人と存じあげる――」
(『熱き心を持った良識の人』ですって!)
「――今から敢えて打ち明けますが、僕は、あなた方が秘密を守ってくれると確信しています。よろしいかな?」
たたみかけるようなシャルルの物言いに、わたしの心臓は早鐘を打っていた。
「ここにいるデイテは、確かに、本当に、吟遊詩人です。が、僕は、銀河帝国政府の人間だ」
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