見出し画像

なぜ「マツコの知らない世界」から食ブームは誕生するのか?

食ブームを探っていると「あのメニューは『マツコの知らない世界』に登場してトレンド化したんだよ」というフレーズに出合うことも少なくありません。
番組に登場したマヨネーズの購入率が185%伸長したというデータもあるほど、日本人の消費行動に絶大な影響を与えている本番組を深掘りしてみたいと思います。


はじめに「マツコの知らない世界」とはどんな番組?

日常の興味深い"知らない世界"を、その道のスペシャリストがマツコ・デラックスが紹介していくTBS系列のバラエティ番組「マツコの知らない世界」。放映は、毎週火曜日(20:57〜)の1時間で、毎回2人のスペシャリストが登場します。

番組をきっかけに急上昇した食ブームを挙げるなら、最近ではたらこパスタ、チョコミント、冷凍食品、レトルトカレー、バターなどが挙げられます。


番組が巻き起こす食ブーム。理由は、この4つ。

《理由1》  社会的ブームには、テレビが欠かせない。
《理由2》 30分の尺が、無関心の壁を超える。
《理由3》  血の通った、マツコの食レポ。
《理由4》 扱うテーマは、明日買えるもの。


《理由1》 社会的ブームには、テレビが欠かせない。

ブームは3段階のフェーズでまとめることができそうです。
第1フェーズは、コアな一部ファンが、一部のメディアで盛り上がる段階。インスタグラマーなどの影響力の強い人が起点となって盛り上がることが多く情報感度の高い10〜20代の男女が牽引しています。

第2フェーズは、第1フェーズから伸長して一層広い世代で盛り上がっている状態。第一フェーズの層に加えて、サラリーマンや主婦が、テレビやラジオ、雑誌の特集などの4マスを通じて知り興味を持つような状態です。
最後の第3フェーズとは、そんな盛り上がりが定着して、定番化に整っていく段階として整理します。

本番組で扱うネタは、この第1フェーズ→第2フェーズへの壁を越えることに大きく機能しているように考えれます。

この壁(キャズム)を越えるために獲得しなくてはならないのが、イノベーター理論で言うアーリーマジョリティ。市場全体の34.0%をシェアし平均より早くに新しいものを取り入れる層。日本の場合、それは30〜50代のサラリーマンや主婦が該当すると考えられます。
自身の好きな物を知っていることもあって、消費行動は比較的保守的になっています。

成熟した日本において、この層を巻き込まない限り社会的現象にはなりません。あくまでネット上で水面下で話題になっている「爆速トピック」にすぎないのです。

イノベーター理論とは1962年に米・スタンフォード大学の社会学者、エベレット・M・ロジャース教授(Everett M. Rogers)が提唱したイノベーション普及に関する理論で、商品購入の態度を新商品購入の早い順に五つに分類したもの。(参照:JMR)

▶︎アーリーマジョリティ(Early Majority:前期追随層):
比較的慎重派な人。平均より早くに新しいものを取り入れる。ブリッジピープルとも呼ばれる。市場全体の34.0%。
▶︎イノベーター(Innovators:革新者):
冒険心にあふれ、新しいものを進んで採用する人。市場全体の2.5%。

▶︎アーリーアダプター(Early Adopters:初期採用層):
流行に敏感で、情報収集を自ら行い、判断する人。他の消費層への影響力が大きく、オピニオンリーダーとも呼ばれる。市場全体の13.5%。

▶︎アーリーマジョリティ(Early Majority:前期追随層):
比較的慎重派な人。平均より早くに新しいものを取り入れる。ブリッジピープルとも呼ばれる。市場全体の34.0%。

▶︎レイトマジョリティ(Late Majority:後期追随層):
比較的懐疑的な人。周囲の大多数が試している場面を見てから同じ選択をする。フォロワーズとも呼ばれる。市場全体の34.0%。

▶︎ラガード(Laggards:遅滞層):
最も保守的な人。流行や世の中の動きに関心が薄い。イノベーションが伝統になるまで採用しない。伝統主義者とも訳される。市場全体の16.0%。

アーリーマジョリティに届く、火曜9時。

「マツコの〜」は、そんなアーリーマジョリティ層の心を掴む絶妙な番組なのだと思います。
朝早めに出勤して、ちょうど会社から夕食を食べるようなサラリーマンと、家事をおわらせて少しゆっくりできる主婦、この2つのターゲットの視聴時間が唯一重なるタイミング。両方向に影響を与える時間帯の番組なのです。


《理由2》 30分の尺が、無関心の壁を超える。

私は、番組内の取り扱う「尺(放送時間)」もポイントだと思います。
「マツコの〜」の場合毎回2つのネタを扱いますが、その尺はネタによって変わります。比較的反応のいい(?)食ネタの尺は、30〜40分で扱うことが多く、扱うテーマの基本情報→はまる理由→テーマの最新情報といった深い内容を伝えきることができます。

情報感度もそこそこで、自分が好きなものを食べたいと思っており保守的なサラリーマンや主婦層の心を動かすには、それなりのパワーが必要です。
それはコンテンツ力(編集力)もそうですが、尺もやっぱり重要。どんなに魅力的な内容でも5分では、洗脳できないこともあるのです。

本番組と同様に「モノ」を扱う番組として、NHKのあさイチや、タモリ倶楽部、王様のブランチなどがありますが、サラリーマンと主婦に届けられて×30分程度の尺で伝えきる番組は「マツコの知らない世界」だけなのです。


《理由3》 血の通った、マツコの食レポ。

「マツコが食べていると、それだけで幸せな気持ちになる」と言わしめる、マツコの素晴らしい食レポ。
あるグミ会社の社長が「今、商品が一番売れるのはマツコ人気アイドルでもなく有名タレントでもない」と話していた記憶があります。
なぜ、マツコの食レポは茶の間を魅了するのでしょうか。

注目される食べ方。何を言うのか期待させる無表情。

マツコさんは巨躯の存在感を利用するかのように、食べる時も非常に大きな口でダイナミックに食べます。アイスやカレーを飲み物のように食べる様子は異常レベル。つい目を凝らして注目してしまいます。
そんな口元に対して、目は無表情。無心で食べるマツコさんの様子から、どんなコメントがでてくるのかと、つい期待してしまいます。

無表情から一転。シンプルな言葉で惹きつける。

無口&無表情で食べたあと、マツコさんはその味をシンプルでわかりやすい一言でまとめます。
無表情から一転して表情豊かに、テロップでまとめやすい言葉で味を紹介します。おいしい、だけではなく「爽やか」だとか「●●●の味に近い、似ている」など、北海道から沖縄まで、万人が知っているものと比較し、その味付けのポジションを視聴者に説明してくれるのです。

冒頭の無表情で食べる→弾む声でキャッチな説明。この緩急のある食レポが、より食べ物の魅力を引き出し、食べてみたい、という気持ちを促しているのかもしれません。


《理由4》 扱うテーマは、明日買えるもの。

ぜひ番組制作者に取材させてもらいたいものですが、あくまで仮説として言えるのは、扱う食ネタの多くは明日購入できるものが大半です。

これは、テレビ番組の影響保持時間とも関係しているのでしょう。
番組を見て、食べたい!買ってみたいと思う気持ちが維持されるのはせいぜい1日〜2日程度ではないでしょうか。情報が氾濫する世の中で、ひとつの番組の記憶はすぐに頭の奥に身を潜めてしまうのです。

だからマヨネーズやコンビニ飯、カレーなど。
日常的に接触できる、普遍的な商品を主に扱っているのだと思います。

また、社会的ブームを巻き起こすには、すでに知られている認知済みの食べ物・商品でなければ難しいでしょう。例えば、フムスやクミンといった特定の世界では盛り上がっている食べ物でも、まだ社会的には無名レベル。たとえ番組で扱ったとしても流行るような気がしません。

全く知らない食べ物や商品を社会的現象(第2フェーズ)まで持ち上げるのは、1つのテレビ番組だけの力では不可能なのです。


いかがでしたでしょうか?
なんとなく、あのテレビを見ると食べたくなる。なんとなく、あの人が食べていると食べたくなる。という感覚的なものも、実は巧妙な仕掛けによる影響なのかもしれません。

これからの食ブームの起点となるこの番組は、これからも重要マークして視聴してきたいと思います。







この度はありがとうございます!わたしのメディア「Yellowpage」のニュースレターに登録いただけましたら、とっても嬉しいです。https://yellowpage.tokyo/#newsletter