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【雑感】これからの改憲論議を見据えて

昨日、5月3日は「憲法記念日」でした。日本国憲法が施行された日です(公布は11月3日)。

正直にいえば、ゴールデンウィークの中にはどのような祝日があって、それぞれがどのような意味を持つのかいちいち意識している人は多くないと思いますが、憲法記念日くらいは知っておきたいところです。

さて、憲法記念日になると毎年盛り上がるのは「改憲」論議です。今回は、改憲論議の活発化を見据えて、いま理解しておきたいことをまとめました。

各紙の世論調査

改憲については、様々なメディアが世論調査を行っています。

まず、朝日新聞の世論調査では、改憲機運が高まっていないことがはっきりと指摘されています。自民支持層でも6割が高まっていないと答えるのは興味深いところです。

続いて、日本経済新聞とテレビ東京の世論調査ですが、改憲すべきが5割超えとなっています。

産経と毎日も載せておきます。結果はかなり分かれていますが、設問も微妙に異なりますし、サンプルの違いもあるでしょうから、安易に「捏造」と言ったりはせずに、一つ一つを参考程度に受け止める姿勢が必要かと思います。

数字よりも大切なもの

憲法に関する議論をする上では、数字だけにとらわれず中身をしっかりと見ていくことが重要になると思います。「賛成」「反対」の量よりも、どこをどのように変えたらどうなるかといった改憲の内容を重視した報道こそ必要ではないかと思います。

法学者の宍戸常寿さんも次のように述べています。

世論の形成を担うメディアはしばしば、「あなたは憲法改正に賛成ですか反対ですか」という世論調査を行っています。しかし、およそ抽象的に憲法改正に賛成か反対かを問い、その数字を比べるだけでは、生産的な議論にはつながりません。憲法の役割や機能について正しい理解を広め、具体的な条文や運用の課題を論じ、対立を煽るのではなく健全な論争を喚起するような報道が、特に憲法については求められます。

しかし、驚くことに世論調査についての記事や、憲法集会の様子、各党の党首らの意見などは報道されているのに、肝心の内容についての報道はあまりされていません。

いくつかの記事で、9条については言及されていましたが、具体的な解説はほとんどありません。その上、自民党が以前に公表している「改憲4項目」の他の項目についての報道もあまり見つかりません。

かろうじて見つけたものを載せておきます。産経新聞が頑張っているという印象でしょうか。正直、産経新聞が刑法学者の高山佳奈子さんの改憲批判に関する記事を載せているのは意外でしたが。

改憲4項目については、自民党が公式に発表している資料も参照しておきたいところです。

賛成・反対を超えて求められるもの

私の個人的な立場を言えば、改憲には反対していますが、改憲に賛成するという声があるのも理解できますし、どちらの声も尊重されるべきだと思います。

また、4つの項目のすべてではなく、部分的な賛成・反対、例えば「教育の充実」は賛成だけれども「緊急事態条項」には反対というような意見も考えられます。そもそも、4項目は独立して改憲することに何ら問題はないと考えられるからです。

少し話はそれますが、「働き方改革関連法」という法律が今年の4月から施行されました。働き方改革を進めることは日本社会にとって喫緊の課題でありますが、関連法案の中には「裁量労働制の拡大」や「高度プロフェッショナル制度」といったものが含まれており、激しい議論が起こりました。結局、しっかりとした説明は果たされぬまま、「高度プロフェッショナル制度」は成立してしまいましたが。

労働研究者の上西充子さんが、働き方改革関連法案のことを「毒まんじゅう」と表現していたことも思い出されます。

憲法論議を見ていると、これと同じような問題が見えてきます。つまり、本来はそれぞれの項目を吟味する必要があるのに、一部の項目のみの議論で全体を決めてしまうという懸念です。

例えば、9条改憲にばかり目を奪われているばかり「緊急事態条項」はまともな議論もされないということが起こるかもしれません。この項目は、ナチスの手口と類似していることも指摘されています。そんなに大事な項目にもかかわらず、現時点でも報道で取り上げられることは稀です。

ですから、改憲4項目はそれぞれを吟味する必要がありますし、本来はそれぞれの項目について賛否を問うのが適切ではないかと思います。それは、世論調査も然りです。そうした世論調査を実施することで各項目について考えることを促すことにもなると思いますし、改憲論議の活発化につながるとも思います。

その他の視点

改憲について考える上では、そもそも「憲法」を変えなければならない問題かという視点も必要だと思います。例えば「教育の充実」を憲法で規定する意味はなんでしょうか。普通の法改正ではダメで「憲法改正」でなければならない理由まで考えて、改憲に至ることができると思います。中身の良し悪しだけが改憲の基準ではないことは大切な視点です。

また、法学者の曽我部真弘さんのこのような意見も参考になります。

具体的な課題を検討する中で、法律の改正ですむものもあれば、これまでの例では野党の権利保障とか国民発案のように、憲法改正が必要な、あるいはその方が望ましいような項目が出てきます。つまり、政治の仕組みを改革するための具体的な検討が憲法改正につながるというボトムアップの憲法論です。これに対して、これまで実際に行われている改憲論は、憲法典のレベルだけを念頭に置くいわばトップダウンの憲法論で、改正するとどうなるのかが分かりにくいと言われるのはそのためです。

「改憲をするとどうなるのか?」と考えることも大切ですが、具体的な目の前の課題から思考していくボトムアップ型の議論が足りていないから改憲論議は分かりにくいということが指摘されています。国民が主体的に参加する論議のためにはこうした視点も参考になるかもしれません。

おわりに

以上、思いつくままに書き連ねてきましたが、私としては「憲法」をきっかけに政治についての興味・関心が強まるのであれば、改憲論議でもなんでもやって良いと考えています。改憲反対派も、論議そのものを反対するのではなく、改憲を反対するという姿勢が本来であれば望ましいと思います。

しかし、望み通りにはいかないだろうと思ってしまう現状もあります。

選挙の投票率は決して高くありません。国会ではまともな答弁ができない人がたくさんいます。不都合なものは隠蔽されます。統計にも不正が見つかりました。この国の民主主義は、風前のともしびです。

新元号を公表しただけで政府・与党の支持率が大幅に上がりました。雰囲気に流されやすい国民のようです。まともな議論をしなくても、ポジティブキャンペーンをすれば改憲になりそうですね。

先日の統一地方選では泡沫候補が多く当選し、中には議員として相応しくないような差別主義的な発言をした者もいるといいます。選挙に行っている人でも、ちゃんとした理由で選んでいるのか心配になります。

本気の「改憲論議」をするためには、この壊れかけた民主主義というシステムをなんとかするところから始める必要があるかもしれません。

成熟した民主主義なくして改憲論議はない」のです。

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