心理学を学んでいるただの学生です。

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最近の記事

【書評】『非認知能力』

はじめに本記事では、小塩真司編著『非認知能力』(北大路書房, 2021)を出発点として、「非認知能力」という概念について筆者(私)の考えた点を記していきます。 おことわり 筆者は心理学者ではないため、内容に誤りがある可能性があります。また、筆者の私見を多く含んでおり、中には本書に含まれていない議論もあることをご了承ください。 まず、本書の題となっている「非認知能力」という言葉は、認知能力ではないもの(「非」認知能力)という非常に広範な概念を指し示しています(参考)。その中

    • 「SOSの出し方に関する教育」をめぐる論点の整理

      昨年(2020年)、自ら命を絶った児童生徒の数は479人にのぼり、前年比で1.4倍となったといいます(参考)。子どもの自殺対策が喫緊の課題となる中、「SOSの出し方に関する教育」の推進が図られるという報道がありました。 【引用】 (「子供・若者育成支援推進大綱」の)改定案では、新型コロナを受けて、「多くの子ども・若者は不安を高め、『望まない孤独』の問題が顕在化している」と指摘した。子どもや若者の自殺に関しては、「コロナ禍の影響も懸念され、極めて重大な問題」とし、対応が急務だ

      • コロナ禍での自殺者数の変動についてのメモ【雑記】

        「自殺者数16%増加」のニュースで話題となっていた、Nature誌掲載の論文について、その結果を大まかにまとめました。 【出典】Tanaka, T., & Okamoto, S. (2021). Increase in suicide following an initial decline during the COVID-19 pandemic in Japan. Nature Human Behaviour, 1–10. https://doi.org/10.1038

        • 2020年に聴いた音楽を振り返る

          激動の2020年が終わる。今年は家にこもる時間が増えたからか久しぶりに色々な種類の音楽を聴いた一年だった。新型コロナの影響で音楽産業は大きなダメージを受けたが、それと同時に音楽のカタチが大きく変化した一年でもあった。自分の聴いてきた音楽を振り返りながら、ざっくりと一年間考えてきたことを振り返る。 『令和二年』(amazarashi)とげられぬ夢 やむを得ぬ故 恨めしく睨む空 令和二年 風切りの映画 新譜のツアー 中止の入学式 令和二年 /『令和二年』- amazarash

        【書評】『非認知能力』

        • 「SOSの出し方に関する教育」をめぐる論点の整理

        • コロナ禍での自殺者数の変動についてのメモ【雑記】

        • 2020年に聴いた音楽を振り返る

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          「理科固有の動機づけ」の研究に感じていること【雑感】

          〔おことわり〕 今回の記事は理科教育に関する動機づけ研究について最近感じていることを書きました。やや専門的な話が多く、推敲もしていないので読みにくい部分が多いと思います。それでも興味があるという方は最後までお付き合いいただければ幸いです。なお、筆者は理科教育の専門家でも、教育心理学の専門家でもなく、一人のしがない学生であり、内容の正確性は保証しかねます。(なお、誤りなどありましたら、ご指摘いただければ幸いです。) 学習動機づけ(motivation)の研究ではこれまでに多く

          「理科固有の動機づけ」の研究に感じていること【雑感】

          ナイキのCMそのものに隠された「否認するレイシズム」

          〔要約〕 ナイキが公開したCMをめぐってはネット上で様々な意見が飛び交い、特に人種差別の存在を否定するような声(例:日本人が差別をしているように見える)には、多くの否定的な考察がされてきた。その中には、そういった声が日本社会の「否認するレイシズム」の表れであると主張する記事もある。しかし、ナイキのCMやその姿勢について考察すると、スポーツの持つ加害性の否定、ナイキ自身の加害という事実の無視、さらには自己責任論の強化など、ナイキのCMにも「否認するレイシズム」が内包されていると

          ナイキのCMそのものに隠された「否認するレイシズム」

          「行動変容」を促すメッセージ発信のポイント

          はじめに新型コロナの感染拡大が続く中、「行動変容が足りない」というメッセージを感染症の専門家や政治家から繰り返し聞くようになりました。しかし、こうしたメッセージはどこか "市民任せ" であり、本気で行動変容をさせたいという意思を感じられないと感じています。 たとえば、政府のコロナ対策を担っている西村経済再生相は「感染拡大が続けば、皆さんの就活に影響する」というメッセージを若者に向けて発信したといいます。 しかし、よく考えてみれば、若者の中で「就活」に対する影響を受ける人た

          「行動変容」を促すメッセージ発信のポイント

          子どもの自殺者数増加についての考察:一斉休校の効果に注目して

          〔本記事の要点〕・小中高生の自殺が急増しているという報道があり、その背景には「一斉休校」の影響があるのではないかという推察が一部でみられた。 ・しかし、小中高生の自殺増加はここ10年ほどの長期的な傾向であり、今年度の増加も(現時点では)その増加傾向とさほど変わらないため、新型コロナの影響によって自殺が急増していると言いきることはできないと考えられる。 ・また、「一斉休校」が自殺数に及ぼす影響について、即時的な影響(2020年3月~5月頃)はほとんどなかったと思われる(e.

          子どもの自殺者数増加についての考察:一斉休校の効果に注目して

          若者の政権支持の背景にある現状肯定は「あきらめ」から生じているのではという話。

          「若年層ほど内閣支持率が高い」という毎日新聞の記事が少し話題となっていた。 内閣支持率は若い世代ほど高く、年齢が上がるにつれて減少。菅義偉首相による日本学術会議の会員候補の任命拒否は「問題とは思わない」との回答が若年層ほど高かった。米大統領選では、若者ほどトランプ大統領が当選した方が日本にとって好ましいと答えた。 〔出典〕日本は若者ほど「政権支持」「トランプ支持」 世論調査で見る現状維持志向(毎日新聞) この記事の元となった調査結果はこちらで無料で読める。記事のタイトル

          若者の政権支持の背景にある現状肯定は「あきらめ」から生じているのではという話。

          「死にたい」という想いを尊重する方法は「死」以外にもあるはず【雑感】

          時に、人は「死にたい」という想いに駆られることがあります。中には、重い病気に苦しむ中で、長い間ずっと「死にたい」という想いを抱える人もいます。 京都で起きたALS女性に対する「嘱託殺人事件」(※1)は、ALSという難病を抱えた女性の「死にたい」という想い、言い換えれば "願い" を 外部の人間が実際に "叶えてしまった” 事件でした。 そうした背景があるからか、この事件で殺人に関与した医師が裁かれることに対して反対意見を持つ声や、この事件によって亡くなった女性に対して「願

          「死にたい」という想いを尊重する方法は「死」以外にもあるはず【雑感】

          まじめだからこそ"死"について考えてしまうのかもしれない【雑感】

          ロックバンド・amazarashi の「僕が死のうと思ったのは」という曲にこんな一節がある。 死ぬことばかり考えてしまうのは きっと生きることに真面目すぎるから 出典:「僕が死のうと思ったのは」- amazarashi amazarashi が歌っているように「まじめ」というのは、案外やっかいなものなのかもしれない。 自殺と殺人と「まじめ」 先日、俳優の三浦春馬さんが自殺によって亡くなられた。好きな俳優さんの一人だっただけに非常に悲しみを覚えた。そんな三浦さんの生前に

          まじめだからこそ"死"について考えてしまうのかもしれない【雑感】

          「優生思想はダメ」と言いきることへの疑問

          相模原障害者施設殺傷事件から4年の月日が経ちました。今年、改めて「優生思想」の問題と向き合いたいと思い、このnoteを書いています。 ここ1ヶ月の間に「優生思想」という言葉が語られる機会が増えたからか、昨年のこの時期に書いた『”優生思想”は誰もが持っている』というnoteを多くの方に読んでいただいているようです。拙稿を読んでくださった方がいらっしゃいましたら、本当にありがとうございます。 さて、先ほども述べましたが、ここ1ヶ月の間だけで、れいわ新選組・大西つねき氏(現在は

          「優生思想はダメ」と言いきることへの疑問

          「命の選別」発言を「差別的」と切り捨てて終わりでいいのか【雑文】

          はじめに「優生思想」というものについて学び、2年ほどこの問題について考えてきましたが、どうしたら「優生思想」と立ち向かうことができるのか、未だにその答えは出ていません。本当に難しい問題です。 最近、大西つねきさんという方が政治による「命の選別」を肯定する発言を行ったとして話題になりました。本稿では、この問題について自分が考えていたことを思いついたままに自由に書き連ねることにしました。今後、考えていく上での材料にするためです。 あまり他の人に読んでもらうことを想定していない

          「命の選別」発言を「差別的」と切り捨てて終わりでいいのか【雑文】

          【雑感】ドラマ『中学聖日記』で描かれた”禁断の純愛”と二人の成長

          今回は、ドラマ『中学聖日記』という作品を見て感じたことについて書き残しておきます。結局、「禁断の純愛」って何だったのだろう? そんなことを考えて書いています。 2018年公開のドラマ『中学聖日記』は、かわかみじゅんこの同名漫画を原作とし、女優の有村架純さんが演じる教師(末永聖、以下「聖」と記載)と俳優の岡田健史さんが演じる生徒(黒岩晶、以下「晶」と記載)の "禁断の純愛” を描いたドラマです。 画像出典:https://realsound.jp/movie/2018/12

          【雑感】ドラマ『中学聖日記』で描かれた”禁断の純愛”と二人の成長

          【雑感】9月入学の議論のための視点の持ち方

          「できない理由ばかりを並べてる」「解決案を出すのが仕事だろ」 賛否の分かれている「9月入学」案について、日本教育学会からの声明が出されました。それが紹介された記事に対して、このようなコメントをする人をTwitterでかなり見かけました。 記事の中では「9月入学」案の代替案も紹介されており、上記のような批判の趣旨をわたしは十分に理解できません。 ただ、それ以上に「できない理由を探してる」のはおかしいといった発想自体が気になります。この意見は、場合によっては「やる気がないだ

          【雑感】9月入学の議論のための視点の持ち方

          「良い人」は「悪いこと」をしない?

          三谷幸喜の作品『12人の優しい日本人』をリモートで読むという企画がYouTubeで公開されています。 あらすじ これは「日本にもし陪審員制度があったら…?」という物語。 ある裁判の陪審員として、仕事も性格も裁判へのやる気も全く異なる、12人の一般市民が集められた。 評決は全会一致が原則である中、最初の決で12人全員が「無罪」に挙手。呆気なく審議終了・解散となりかけたところ、陪審員2号が「話し合いたいんです」と意見を「有罪」へと翻す。 いざ話し合いが始まってみると、理由があや

          「良い人」は「悪いこと」をしない?