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LBO分析 | アドオン買収

今回はAdd-on acquisition(アドオン買収)に関して概略を簡単に記載していく。


概要

アドオン買収はプライベートエクイティファンドが、買収後のバリューアップ戦略として行う手法の一つで、簡単に言うとある企業(セクター問わず、何らかのプラットフォームになりうる企業)を買収した後に、同業でプラットフォーム企業よりも規模が小さい会社を追加的に買収(Add-on)することでEBITDA contribution を加速させる手法である。

Inorganic growthともいわれるが、最初に買収した会社の成長のみに頼らず、まさにM&Aによりトップライン・EBITDA成長のための時間をカットし、より有利なエグジットを目指すための方法と言えるだろう。日本のPEファンドでも行っている手法であるが、欧米のアッパーミドル~ラージキャップのPEはバリューアップの一環でよく行っている。

個人的には、PEのみならず事業会社が特定の会社(過去に買収した企業)を成長させる際にも有効な手法だと思う。

アドオン買収におけるポイント

まずはアドオン対象の会社を探す必要があるがその際のポイントは①プラットフォーム企業買収時よりも低いバリュエーションで買収可能、②トップラインが大きく伸びているわけではないがCapexがあまりかからず毎期安定したEBITDAを計上している、等が挙げられるであろう。

アドオン買収により以下のメリットが享受できる

①:クロスセリングの機会を獲得し、マージン改善や規模の経済のメリットを享受
②:地理的拡大およびエンドマーケットの獲得によりトップライン拡大
③:R&Dのリソース等、内的な競争優位性を獲得
④:顧客やキーアカウントの集中を防ぐ (Diversified revenue source)

アドオン買収時のファイナンスも、デットを使用しても良いができればFCFにより賄える範囲の規模の会社が望ましい。追加的にデットを調達するとその分金利がかかりFCFを圧迫してしまうためである(もちろんアドオン買収した会社のFCF yieldが高ければデットで調達しても大きな問題にはならないだろう)

LBOモデルに反映させる方法

通常のLBOモデルにおいてアドオン買収を反映させる手法は、そこまで複雑になりすぎないようにしたい

とはいえ、まずは最低限トップラインとEBITマージンのデータ、DAマージンのデータ、アドオン買収のファイナンス(デットかFCFでそのまま賄うか)、アドオン買収する会社の純資産の数値と、買収後に発生するのれんの処理(IFRSベースで非償却か、JGAAPベースで償却か)についての情報があった方が望ましいので、仮定を設けて分析できるようにすることが重要である。

アドオン買収する際のマルチプルの閾値(許容可能な範囲)も決めておくことが重要である(少なくともプラットフォーム企業買収時よりは低い数値であるべき)

設例

今回はシンプルなケースを用いてアドオン買収をした場合に、アドオン買収しない時よりもリターンが上がっていることを示せる簡易的なモデルで見ていきたい。
3表繋げるshort form LBOではなく、あくまでPaper modelのように簡易的なモデルにしている。アドオン買収の実行の有無はフラグを設定してモデルに反映させる方式にしている。

簡易モデル|全体像

Overview

まずは今回の設例で使うモデルを上げてみた。今回の設例の前提条件は以下の通りである。

Sources and Uses

Platformの企業を以下のSources and Usesの前提で買収したものとしよう。簡略化のためにLoan vs Equityの比率は1:1とした。更に買収価格に関してはネットデット=0とし、ディールコストも無視している。

Uses
Source

財務概要

簡単に売上高とEBITDAのみハイライトしている(下記参照)。財務数値の単位は百万ドルとする。

Summary financials ($ mm)

プラットフォームとなる会社はエントリー時の売上高は1,000百万ドル、EBITDAマージンは10%としており、アドオン対象となる会社は仮でエントリー時の売上高100百万ドル、EBITDAマージンはプラットフォームとなる会社と同じ10%としている。ここでは売上高が毎期5%ずつ成長する過程を置いている。
今回はマージンや成長率はケース別に分けないものとする(あくまでアドオン買収を行い期間をケースで設定)

FCFおよびアドオン買収時の仮定

デットの返済に充てることができるFCFは毎期60、プラットフォームとなる会社を買収した際に計上したLBOローン、およびアドオン買収は当該FCFで賄うものとする。

例えば、上記の例ではエントリー時点を2023年期初として2期目と3期目(それぞれ2024年12月期、2025年12月期)にアドオン買収を行うものとしている。その際にEBITDA×アドオン買収時のマルチプルは仮置きで5x(プラットフォーム企業買収時の10xよりも低いものとする)としている。

FCFのうちアドオン買収にかかったキャッシュを除いた金額がデットの返済に充てられると理解すればいいであろう。

モデル概観(再掲)

上記のモデルでは一番の上の行のAdd-on?と記載されている行でYes(Y)もしくはNo(N)を選択すれば、それに応じてPlatform acquisitionのYear-1~Year-5の各期のアドオン買収にかかるRevenueおよびEBITDAが計算される。ラダー状にモデルに財務数値が反映されることが分かると思う。式の参照を間違えないように注意したい

リターンの比較

それではリターン計算の比較をしてみよう。以下はアドオン買収を行わないケースで、投資期間5年のIRR:16.6%になっている。

Return summary

それでは、プロジェクション期間の2~4年目にアドオン買収を行った場合にどのようなリターンになるか下記で確認してみよう。
以下にある通りデットの返済はアドオン買収を行わない場合よりも進まないが、一方でEBITDA expansionはアドオン買収により加速するのでエグジットマルチプルを一定とした場合は5年目のリターンは20%を超える。
EV=Platform EBITDA(アドオン買収を反映した後のEBITDA)×エグジットマルチプルで計算される。
エグジット時点のEVからデットを控除しエグジット時点の株式価値を計算している。

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