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皐月まうワールドの魅力に引き込まれて

心の調子が悪くなってから本を読むことが難しくなった。文字を追うことはできるがなかなか頭に入ってこない状況が続いていたが、先月は久しぶりに本を楽しんで読むことができた。


それが嬉しくてたくさんの本を読んでいた。だんだん良くなってきたぞと思っていた矢先にまた本を読むことが難しくなった。


文字を追ってそこに書いてあることを頭の中で思い浮かべることが難しくて、できたとしてもとてもエネルギーを費やすことになった。


そんな時に皐月まうさんの『ホケミ』という小説に出会った。


文章が頭に入ってくると感じたのが最初の感想だった。そこからはどんどん物語の世界に引き込まれていった。


一気読みしてしまうと作品を消費しているような感覚があって申し訳ない気持ちになるのだが、それでも次の作品を読みたいという衝動はなかなか抑えられるものではなかった。


まうさんの小説を読んでいると同じ世界なのにこんなにも違った景色が見られるんだと感じた。様々な人の世界にお邪魔している感覚があった。


そして、これ私のことを書いているんじゃないのかと思える心理描写がたくさんあって驚いた。普段感じているどうしようもないモヤモヤをこんな風に言葉にできるんだと感じた。


まうさんは様々な経験をしたのか、想像力が豊かなのか、観察眼が鋭いのか、その全てなのかそれは分からないけど、この登場人物たちはこの世界に存在しているんだと思えた。私と同じような人たちが暮らしているんだ、私と異なる人たちが暮らしているんだ、そう思えた。


そして私は「あとがき」を読むのがとても好き。作者が喋ったあ!という感覚があるからだ。普段小説を読んでも他の人と感想を交える機会がほとんどないので、あとがきを読むと作者とこの本についてお話しをしているような気持ちになれるあの感覚がとても好き。


とはいえ、あとがきは作品あってのものだと思う。私の中で特に心に残っている作品は『少女よ、星になれ』と『ゾンビさんとわたし』だ。



私はここ数年苦しさから逃れるためにきえてしまいたいという気持ちが拭えないでいる。一度そう考えてしまうと苦しさから逃れる手段がそれしかないと思い込んでしまうので余計に苦しくなることがある。


でもこの小説を読んで、私たちは生きている間に自由になれるのだとしたら最後の手段を取ってしまう前に星になろうと思えた。ゾンビさんと仲良くしようと思えた。


完全に苦しい気持ちが取り除かれたわけではないけど、苦しくなったらまたここに戻ってこようと思える場所ができた。


居場所なんて文字通り「場所」じゃなくてもいいんだと思えた。私が抱えている悩みを過大評価も過小評価もせずに適切な重さで捉えるきっかけにさせてくれる場所がここにあった。


どれだけ前進しようが、どれだけ後退しようが、ここに戻ってきていいよという安心感がある。


小説は私たちが見たことのない世界へ連れて行ってくれる役割もあるし、居場所がないと思える人たちに居場所を作ってくれる役割もある。そのふたつの役割を併せ持っているのがまうさんの小説の世界なんだと思う。少なくとも私にとってはそうである。



みなさんもぜひ皐月まうさんの世界を旅してみてください。





皐月まうさん
素敵な小説を書いてくださってありがとうございます。ひとつひとつの作品に感想を述べたい気持ちもあったのですが、コメントに返信してもらうのが申し訳なかったのでここにまとめました。素敵な世界に連れて行ってくださったこと、ここにいてもいいよと居場所をくれたこと、とても感謝しています。この小説たちに出会えてとても良かったです。改めてありがとうございます。



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