MBTIを疑問視する記事
アメリカ合衆国のPsychology Todayに,MBTIを疑問視する記事が投稿されていました。こちらです(Personality Assessments: Separating Science From Nonsense)。
今回はこちらの記事を参考にしながら,パーソナリティ検査の現実への応用について考えてみましょう。
人事の決定
日本でもアメリカでも,パーソナリティ検査が仕事への採用プロセスや人事上の決定に,参考情報として用いられています。それは時には「適性検査」という名前がつくこともあります。「パーソナリティ(性格)ではない。適性だ」と言うかもしれませんが,本質的にたいした違いはありません。なぜなら,おそらく質問項目を並べて「どちらが性格の質問項目で,どちらが適性の質問項目ですか」と尋ねても,誰も(おそらく心理学の専門家でさえも)区別はできないだろうからです。
このような検査に対する批判も,昔から存在します。「実際の複雑な行動は予測できない」「理解するというよりは,単に人をカテゴリに押し込めるだけ」とか。さらに「人事の時に検査に正直に答えるわけはないのだから,そもそも役に立つはずがない」という批判もありそうです。
一方で,パーソナリティ特性の得点によって,さまざまな現実の結果を予測する研究も数多く報告されています。この問題については,これまでも別の記事で扱ってきました。
MBTI
記事のなかでは,MBTI (Myers-Briggs Type Indicator)が取り上げられています。アメリカでは毎年,さまざまな職場で200万人以上に適用されている検査として,広く知られています。ところが……
各種研究によると,この心理検査は人々の直感に訴えかけるものは多いのですが,心理学的な質についてはどうかというと,企業組織の意思決定に用いて,企業の決定をサポートすることができるかという点では,有用ではなさそうだということが書かれています。
疑問視する研究
たとえば,どんな研究が行われているか,です。
◎5週間の間隔を置いて再検査を行った研究では,50%の人々が最初のカテゴリとは異なるカテゴリに分類された。
MBTIは人々を16種類に分類します。しかし,その分類が調査のたびにコロコロと変わってしまうようでは,「あなたはこのタイプだ」と断言することができなくなってしまいますし,それを使って何かを予測することも難しくなってしまいます。
◎MBTIの得点があるタイプと別のタイプに明確に分かれるという統計的な傾向は示されていない。
MBTIはひとつの得点について「高いグループ」と「低いグループ」に分けて,それを組み合わせることで分類をしていきます。ところが,明確に高低に分けるのは,心理検査ではそもそも簡単なことではないのですよね。
◎MBTIはパーソナリティ全体を測定することができていない。
これは実際に研究を見たこともあるのですが,そもそもMBTIの外向性は,ビッグ・ファイブ・パーソナリティの外向性ともあまり関連がなくて,他のビッグ・ファイブ・パーソナリティの特性もMBTIで測定されるそれぞれの次元とはあまり関連を示しません……となると,そもそも「何を測っているんだろう」?という疑問が生じてしまうのですよね。
連続的に
人々をタイプにあてはめる心理検査は,たしかに人々を無理にあるカテゴリに押し込めようとします。これは類型論である以上,どうしようもないことです。
実際にはパーソナリティ特性は連続的な量として測定されます。そして,これまでの研究でも示されているように,パーソナリティ特性は実際のさまざまな生活上・仕事上の結果に関連が示されています。だからこそ,多くの研究者が「価値がある」と考えて研究を行うのですけどね。
道具はうまく使えば役に立ちますが,使い方を誤れば役に立たないばかりか悪影響をもたらします。パーソナリティ検査のようなツールはうまく使って,そしてこの道具によって不利益を被ってしまう人がいないようにしたいものです。
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