見出し画像

握り飯

卓にどんっと置いたら中身が出てしまった。

思い出だけではつらすぎる〜中島みゆき

どうも思い出話が多くなっていけない。
自分にとっては価値のある記憶でも他人からしてみれば取るに足らないおじさんの戯言だ。
でもまぁ諸君よ。
人生折り返しを過ぎると、世の中大した感動なんぞ落ちておらんのよ。
その果てしなく退屈な日々の繰り返しをいかに楽しく乗り切っていくか、というのが生きる術なのだよ。

握り飯

そんなわけで本題だ。
これも回りくどくていけない。
イケナイおじさんだ。

昼メシには握り飯を作った。
昨日炊いた飯が残っていたからそれを消化すべく。
塩むすびでもいいのだけど、ちょっと頑張って「豚のしぐれ煮」を入れた。
しょうゆと砂糖とみりんと生姜。
煮詰めるだけだ。難しくもなんともない。

あとはまぁ。
ゆうげでいいか。

試験勉強

こんなぼくでも一応人並みに試験勉強なんてのをやったものだ。
カンニングとかは性に合わなかったので、一夜漬けでとにかく必死で覚えた。
まぁ成績なんかは桜ヶ丘だ。
いや違う、推して知るべしだ。

こんなくだらないことを言ってるからロクな大人になれなかったんだ。

勉強をしてるフリをしてると夜も更けてくる。
ウチは晩飯の早いウチだったから腹が減ってくる。
母親に試験勉強するから夜食を作っといてくれ、と頼むと大体このセットが食卓に蠅帳をかけて置いてあった。
具はたくあん(ウチでは「こうこ」と言っていた)の時もあれば、おかかの時もあるし、梅干し海苔の佃煮なんかもあった。
昔はみんなそうだったような気がするが、握り飯は結構がっちり握ってあった。
最近ではほろほろの緩く握ったのが流行ってるみたいだが、オムライスのたまご同様しっかりしてるのが好みなので、できればしっかりとしたのが好い。

それを2階の部屋に持ってきてラジオを点ける。
だいたいコッキーポップかオールナイトニッポンの時間だ。

数分で食べ終えてしまうから、また勉強を始めるのだけど、腹の皮が突っ張ると瞼が弛んでくるのは当然だ。
ハッと気がつくとオールナイトニッポンは終わっている。
そんな調子で試験に臨むのだから、まぁ玉砕である。

夏の津和野

もうひとつ思い出がある。
小学生のころだったか、夏の旅行で山口方面に行った。
父と母と3人だ。
秋芳洞とか萩なんかにも行ったが、途中に津和野にも行った。
津和野に行くのにどこからだったかタクシーを使ったのだけど、エアコンの効いた車内で寝てしまったせいか、ぼくは腹を壊してしまった。
それも普通の腹痛でない。
冷や汗が出てくるくらい痛かったのだ。

ぼくは津和野駅で動けなくなってしまった。
ここで普通なら観光は中断して医者に連れていくなりするのが親だと思うのだが、驚くべき事に腹痛で座り込む息子をひとり駅に残し「ささっと見てくるで、ちょっと待っとりゃー」なんていうベタベタな名古屋弁を残して市内観光に行ってしまったのだ。

駅のベンチで顔色悪く上体だけ横に倒れ込むように座っている少年。
それもひとりだ。
見知らぬ町の駅に1人残されるだけでも充分に心細いのに、とんでもなく腹が痛い(これ今思うと胃痙攣でも起こしていたんじゃないかと思う)
駅員さんが何度も「ぼく大丈夫か?」と声をかけてくれる。両親がもうすぐ来るので大丈夫です、と答えるが、結局小1時間放置されたのだ。

それから宿に行き、ぼくは早々に布団に寝かされた。だいぶ腹痛は治まっていたのだけど、もうぐったり疲れてしまったのだ。
旅館のごちそうなんか食べられるはずもなく、ぼくはそのまま眠ってしまった。

気がつくと部屋は真っ暗だった。
なんとウチの両親は寝込む息子を一度ならず二度までも放置して、近隣へ観光にいったのである。
その時どう思ったかまでは忘れたが、こんな所二度と来るまいと思ったのは確かだ。
部屋の電気を点けると枕元におにぎりがふたつ置いてあった。
梅干しのおにぎり。
見た途端に猛烈に腹が減ってペロリと平らげたのを覚えている。

とても素敵な記憶だ。

この記事が参加している募集

夏の思い出

今日のおうちごはん

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?