大切な人が死を望んでいるとしたら

もしあなたに大切な人がいたとして、
その人が死を望んでいるとしたら、どうするだろう？
あなたはその人に、どんな言葉をかけるだろう。

私には４つ上の恋人がいる。
とても大切な人だ。
彼のような人間は世界中どこを見渡しても見つからない。
強くて、弱くて、真っすぐで、見栄っ張りで、くそ真面目。
賢いが故に、色んなことに気がついては苦しんでいるのに、
自分のことは勘定に入れたがらない、不器用なイケメン。

そんな彼は、おそらくもうすぐ消えてしまう。
彼はもうすぐ自死という道を選ぶ。
そんな気がする。

今の彼は、幼少期に受けた身体的・精神的虐待やネグレクト等から自分を守るために生み出された一つの人格として存在している。
彼は解離性同一性障害だ。
そして初めての彼女を自殺で亡くしている。
いじめも受けた。
父親の借金で貧乏な生活を強いられた。
県内で最も優秀な高校に入学したのにも関わらず、修学旅行費や教材費が払えず自主退学する他なかった。
姉が大学に通う費用を稼ぐため、上京しホストとして働いた。
ホストを辞め、家庭を築こうと結婚し子どもを作るも、嫁に裏切られ傷つけられ金だけが消えていった。
私と出会い、元嫁と離婚してからは、フリーターとして母親と二人暮らしをしている。
摂食障害と鬱病を患っている。
自殺未遂をし、一度心臓が止まったこともある。
日々、吐き気や頭痛、精神的疲労や経済的な不安に耐えながら、何とか生活している。

要するに、彼はもう、ぼろぼろだ。
いつ死んでもおかしくない状況で、彼は生きてきた。
もう何も頑張らなくて良いのに
「楽するのは俺の信念に反する」と言いながら、自分に鞭打って生きている。

彼が、自殺という人生の終わり方しか認めていないのは知っていたし、
もういつ自殺してもおかしくない状況で、何とか最後に愛せる人を見つけようとしていたときに、私を好きになってくれたのも分かっている。

生きる希望を見出して欲しいなんて酷なことは言わない。
ただ私と過ごすことで、少しでも幸せになってくれればそれでよかった。
あなたが一日一日を埋め合わせるように生きる、その理由に私がなれたら嬉しい、その一心で、彼と毎日を過ごしてきた。

あなたを愛している。
愛しているから、生きていて欲しいし、傍にいて欲しいと思う。
愛してると言ってくれるから、あなたの声が聞けるから、
死にたくても生きてこられた。

どこにも行かないで欲しい。
傍にいて欲しい。
お願いだから、いなくならないで。

そう思うけれど、そんなことは絶対に言ってはいけないよ。
彼が死のうと思う日は、彼が生きてきた人生の中で、一番幸せな日だろうから。ようやく苦しみから解放される日だろうから。

暖かく、最大限の愛情をもって、送り出してあげなきゃ。

”お疲れ様”
“よく頑張ったね”
”愛してる”、
”生涯ずっと、誰にも頼らず、あなたがくれた言葉だけを頼りに、生きていく”
そう伝えなきゃ。

泣いちゃだめだよ。私がしっかりしなくてどうするんだよ。
彼が一番辛いんだから。

本当は彼と一緒に死にたいけれど、
私は彼程苦しんでいないから、死ねない。
大して苦しまずに死んだら、彼に怒られてしまう。

彼が憎み壊そうとした世界をひたすら壊し、
彼が守ろうとしたものを、私が代わりに守る。
世界の不平等を一つでも変えてから死ななきゃ、彼が報われないじゃない。

彼は多くのことを私に話してくれた。
人から”嘘だ”とか、”支えきれない”とか言われて話すことを封じてきた過去も、私を信頼して話してくれた。
政治の話、これからの日本のこと、経済のこと、哲学の話、多くのことを語り合った。くだらない話で笑わせたりもしてくれたね。

その全てが愛だった。
彼はきっと、彼の思想や思いや人生全てを私に注ぐことで、
私に生きる希望を与えようとしてくれているのだと思う。
彼が成し得なかったことを、私に託そうとしてくれているのだと思う。

それは、私にしかできないことだろうから。

だから
私は生きるしかないんだ。
彼がいなくなっても、生きるしかないんだ。
どれだけ苦しくても、耐えろ。
やるべきことのために、苦しんで、もがけ。
その道しか、私には残されていない。

とはいえ、彼はまだ生きているからね。
ちゃっかり、30歳になっても一緒に居たりして、なんて思ったり。
でも、
何歳だとしても、人はいつか死んでしまう生き物だからね。
伝えたい思いは、ちゃんと伝えなきゃ。

彼が私にしてくれているように、私もちゃんと、愛を伝えなきゃ。

そんなことを思いながら、今日も生きています。