刀根明日香

1991年、三重県生まれ。ノンフィクションサイトHONZレビュアー。バスケットボール歴…

刀根明日香

1991年、三重県生まれ。ノンフィクションサイトHONZレビュアー。バスケットボール歴9年。酒飲み。好きなジャンルは歴史、人文系、スポーツ系、ゆるいもの。最近は歌舞伎を始めとする伝統芸能に興味あり。

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    ノンフィクション書評サイトHONZ(2011−2024)のアーカイブ

記事一覧

一人の女性の生き様『ナグネ』

本書は国家や民族、宗教という枠組みを越えた1人の女性の話だ。彼女の生き様には心がぱっと晴れるような力強さがある。そして、彼女の人生を追うことは、日中韓の複雑な政…

『日本国最後の帰還兵 深谷義治とその家族』

1978年、日中平和友好条約が締結された。その際の政治の駆け引きに利用されたひとりの軍人、それが深谷義治さんだ。深谷さんは、終戦時、当時の上官から「任務続行」の命を…

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世界地図のいろいろ『オン・ザ・マップ』

地図に思いを馳せるーー残念ながら私はそんなロマンチストではなく、地図も全く当てにできない方向音痴だ。しかし、宝の地図や、新大陸と聞けば、やはりワクワクせずにはい…

『天人 深代惇郎と新聞の時代』新聞が好きでたまらない連中が新聞をつくっていた

朝日新聞の顔とも言える「天声人語」。様々な名コラニストを生んできたが、深代惇郎もその一人だ。初めて新聞をつくる人の素顔を知って、かっこいいなと思った。同時に、新…

刀根明日香
10年前

絵筆を捨てて自然に学べ『子どもに伝える美術解剖学』

著者の布施英利先生が行う絵画教室はとてもシンプルだ。絵筆を置いて、自然へと繰り出す。そして自分のはらわたが疼くのを確認したら、素直に絵に描いて表現しよう。「そん…

刀根明日香
10年前

わたしたちは星の材料でできている『あなたのなかの宇宙』

宇宙を知るには、望遠鏡をのぞき、古生物を知るには、顕微鏡をのぞく。プレートテクニクス、または地球温暖化について知るには、私は何を理解すれば良いのだろう。自然科学…

刀根明日香
10年前

最もセクシーでクールな『ロボコン』

本書を読み始める前は、「よくある先生と生徒の感動物語かな」くらいに、軽く考えていた。しかし、そこで繰り広げられているロボット選手権があまりにもレベルが高く、ただ…

刀根明日香
10年前

本が導く「楽しい」のその先 『ROADSIDE BOOKS 書評2006-2014』

ページをめくるたびに、心が強く突き動かされる本がある。少し時間が経つと、そのときの興奮や気づきが薄れてしまうものだから、何回も何回も読み直す。忘れた気持ちを拾い…

刀根明日香
10年前

江戸の科学する心『江戸の理系力』

「日本を知るには、明治維新前の科学を見るのがおもしろい。」雪の科学者、中谷宇吉郎が自身のエッセイの中で語っていた。日本の科学は、明治以後になって輸入され、模倣さ…

刀根明日香
10年前

『ぼくは数式で宇宙の美しさを伝えたい』

表紙には、マンハッタンのクライスラービルを、窓に手をあてて眺めている少年がいる。しかし、よく見ると彼の右手にはマジックが握られ、窓ガラスには数式がびっしりだ。 …

刀根明日香
10年前

HONZ活動記 -合宿レポート@鬼怒川温泉

こんにちは!「2番」の刀根明日香です。なぜ「2番」なのかは、後ほど説明します。今回は、12月6日に行われたHONZ合宿@鬼怒川温泉の模様を、たっぷりとお届けします。とく…

刀根明日香
10年前

『東洋の至宝を世界に売った美術商: ハウス・オブ・ヤマナカ』

「美術品の世界へようこそ!」と両手を広げて迎え入れてくれるのは、本書の著者、朽木ゆり子さんだ。朽木さんが描く、美術品の背後に渦巻く歴史の数々に、読者は息をつく暇…

刀根明日香
10年前

『マチュピチュ探検記 ― 天空都市の謎を解く』

私が本書を読む前、マチュピチュは「アンデス山脈の頂きに建つ、精巧な石積みによるインカの遺跡」程度の知識しか持ち合わせていなかった。たしかインカ皇帝の財宝が隠され…

刀根明日香
10年前

素晴らしき世界の食卓『小泉武夫のミラクル食文化論』

「(4年目にして)授業に出て、勉強しよう」と思い立った矢先、就活が始まった。説明会や面接に時間をとられ、授業に出る暇もない。全くストレスが溜まる。鬱憤を晴らすた…

刀根明日香
10年前

あやつられたのは人間?『欲望の植物誌』

人間の欲望をあやつる植物。気がついたら植物の虜となり、子孫繁栄のための奴隷となる。なんて怪しい。一体どんな色、形なのだろう……。 なんてことはない。本書の主役で…

刀根明日香
10年前

『世界ふしぎワンダーライフ50』新刊超速レビュー

写真集は人の個性を十二分に表す。写真家の個性はもちろんだが、それを手に取る読者の個性も赤裸々に映し出す。例えば、鰐部祥平は『朽ちる鉄』を手に取る。土屋敦は『温泉…

刀根明日香
10年前
一人の女性の生き様『ナグネ』

一人の女性の生き様『ナグネ』

本書は国家や民族、宗教という枠組みを越えた1人の女性の話だ。彼女の生き様には心がぱっと晴れるような力強さがある。そして、彼女の人生を追うことは、日中韓の複雑な政治背景と、日本が忘れかけている負の歴史、また中国で弾圧されているキリスト教信者の見えざる困難を知るきっかけとなった。

著者は『絶対音感』や『セラピスト』を以前出版された最相葉月さんだ。駅のホームで中国からの留学生に偶然出会い、アルバイトに

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『日本国最後の帰還兵 深谷義治とその家族』

『日本国最後の帰還兵 深谷義治とその家族』

1978年、日中平和友好条約が締結された。その際の政治の駆け引きに利用されたひとりの軍人、それが深谷義治さんだ。深谷さんは、終戦時、当時の上官から「任務続行」の命を受ける。以後、13年間中国に潜伏、中国当局に逮捕され、獄中生活は20年4ヶ月にも及んだ。拷問を受け、生死をさまよい、家族が迫害にあっても守り続けたもの、それは一体何なのか。本書は、義治さんの次男、深谷敏雄さんが6年の歳月をかけて書き上げ

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世界地図のいろいろ『オン・ザ・マップ』

世界地図のいろいろ『オン・ザ・マップ』

地図に思いを馳せるーー残念ながら私はそんなロマンチストではなく、地図も全く当てにできない方向音痴だ。しかし、宝の地図や、新大陸と聞けば、やはりワクワクせずにはいられない。古代の人々にとって、地図とはそのようなものであった。南北アメリカが初めて地図に登場した時代、アフリカ大陸の内陸部の状態が分からず空白だった時代、それぞれの時代を生きた人間が持つ世界観や野望が地図には克明に表れている。本書は、時代を

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『天人 深代惇郎と新聞の時代』新聞が好きでたまらない連中が新聞をつくっていた

『天人 深代惇郎と新聞の時代』新聞が好きでたまらない連中が新聞をつくっていた

朝日新聞の顔とも言える「天声人語」。様々な名コラニストを生んできたが、深代惇郎もその一人だ。初めて新聞をつくる人の素顔を知って、かっこいいなと思った。同時に、新聞が大好きでたまらない人たちがつくった新聞が広く読まれていた時代があったことを知った。

「昭和」と「新聞」、私にはどちらも馴染みがない。私は平成3年生まれ、物心ついたときからインターネットでニュースを拾っていた。社会人になるのだから新聞く

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絵筆を捨てて自然に学べ『子どもに伝える美術解剖学』

絵筆を捨てて自然に学べ『子どもに伝える美術解剖学』

著者の布施英利先生が行う絵画教室はとてもシンプルだ。絵筆を置いて、自然へと繰り出す。そして自分のはらわたが疼くのを確認したら、素直に絵に描いて表現しよう。「そんなに簡単に言われても」、と困るかもしれないが、自分を表現するには、自然を目の前にして、自分の中で何が起こっているのかを理解しなければならない。

本書は2000年10月に『絵筆のいらない絵画教室』として刊行されたものが文庫化されたものだ。著

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わたしたちは星の材料でできている『あなたのなかの宇宙』

わたしたちは星の材料でできている『あなたのなかの宇宙』

宇宙を知るには、望遠鏡をのぞき、古生物を知るには、顕微鏡をのぞく。プレートテクニクス、または地球温暖化について知るには、私は何を理解すれば良いのだろう。自然科学は、理解に達すればロマンチックだが、それまでの過程が難しくて、なかなか進まない。特に、宇宙は物理や化学が大の苦手な私には手の届かない場所だった。

でも本書を読んで、宇宙のビッグバンについて、はじめて理解出来た気がした。ビックバンで生まれた

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最もセクシーでクールな『ロボコン』

最もセクシーでクールな『ロボコン』

本書を読み始める前は、「よくある先生と生徒の感動物語かな」くらいに、軽く考えていた。しかし、そこで繰り広げられているロボット選手権があまりにもレベルが高く、ただの感動物語では済ませられない何かがあった。

高校生ロボット世界選手権「FIRST」(For Inspiration and Recognition of Science and Technology) が目指すもの、それは、科学やテクノロ

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本が導く「楽しい」のその先 『ROADSIDE BOOKS 書評2006-2014』

本が導く「楽しい」のその先 『ROADSIDE BOOKS 書評2006-2014』

ページをめくるたびに、心が強く突き動かされる本がある。少し時間が経つと、そのときの興奮や気づきが薄れてしまうものだから、何回も何回も読み直す。忘れた気持ちを拾い集めるために。

都築響一さんが2006年から2014年の間に書いた書評を編んだ『ROADSIDE BOOKS』は、私にとってまさにそういう本だった。

都築さんには、一貫して変わらないスタンスがある。

このスタンスが本書にも表れ、貴重な

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江戸の科学する心『江戸の理系力』

江戸の科学する心『江戸の理系力』

「日本を知るには、明治維新前の科学を見るのがおもしろい。」雪の科学者、中谷宇吉郎が自身のエッセイの中で語っていた。日本の科学は、明治以後になって輸入され、模倣されたものが多い。だから中谷宇吉郎は、明治維新前の日本の科学を解釈し、独創性ある隠れた科学を堀り起こした。特に江戸時代は、自然科学に目覚め、数学を生活の中に取り入れ、医療も格段に発展した時期でもある。本書は、この中谷博士の「日本の心」を探求す

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『ぼくは数式で宇宙の美しさを伝えたい』

『ぼくは数式で宇宙の美しさを伝えたい』

表紙には、マンハッタンのクライスラービルを、窓に手をあてて眺めている少年がいる。しかし、よく見ると彼の右手にはマジックが握られ、窓ガラスには数式がびっしりだ。

野球帽を逆さにかぶった少年の名前はジェイコブ・バーネット。ジェイコブ君は8歳で大学レベルの数学、天文学、物理学のコースを受講し、9歳で大学に入学した、言わば天才少年である。窓ガラスの数式は、大学入学直後、相対性理論に取り組んでいる際のもの

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HONZ活動記 -合宿レポート@鬼怒川温泉

こんにちは!「2番」の刀根明日香です。なぜ「2番」なのかは、後ほど説明します。今回は、12月6日に行われたHONZ合宿@鬼怒川温泉の模様を、たっぷりとお届けします。とくに後半は、重大な告知もあるのでお楽しみに。それでは、どうぞご笑覧あれ!

ある日突然、成毛眞から号令がかかった。12月に合宿を行い、しかも今回は豪華にバスを貸し切るのだという。いずれにせよメンバー全員が、この日を心待ちにしていたこと

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『東洋の至宝を世界に売った美術商: ハウス・オブ・ヤマナカ』

『東洋の至宝を世界に売った美術商: ハウス・オブ・ヤマナカ』

「美術品の世界へようこそ!」と両手を広げて迎え入れてくれるのは、本書の著者、朽木ゆり子さんだ。朽木さんが描く、美術品の背後に渦巻く歴史の数々に、読者は息をつく暇もない。ノンフィクション特有の、頭の中に次々とわき起こる知的興奮で四六時中頭がいっぱいになる。そんな著者の代表作、『ハウス・オブ・ヤマナカ』が文庫版として再登場した。

本書の序章だけ紹介したい。タイトルは「琳派屏風の謎」だ。「琳派」といえ

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『マチュピチュ探検記 ― 天空都市の謎を解く』

『マチュピチュ探検記 ― 天空都市の謎を解く』

私が本書を読む前、マチュピチュは「アンデス山脈の頂きに建つ、精巧な石積みによるインカの遺跡」程度の知識しか持ち合わせていなかった。たしかインカ皇帝の財宝が隠されているとか……。現在この問いに対して、確かな答えは見つかっていない。あらゆる学者が独自の答えを持ち、証明しようと躍起になっている途中だ。あらゆる仮説が飛び交うなか、本書の著者が見つけた答えは美しい。

著者は、その答えを探すため、1人の人間

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素晴らしき世界の食卓『小泉武夫のミラクル食文化論』

素晴らしき世界の食卓『小泉武夫のミラクル食文化論』

「(4年目にして)授業に出て、勉強しよう」と思い立った矢先、就活が始まった。説明会や面接に時間をとられ、授業に出る暇もない。全くストレスが溜まる。鬱憤を晴らすために手に取る本は、小泉武夫先生の著書だ。就活なんて止めて、辺境に食べ歩きに出かけようか。未来を案ずるより、食卓に並ぶ納豆、キムチ、くさやが気になる。ああ、お酒が飲みたい。先生の著書は私のオアシスである。よくも悪くも「人生どうにでもなる」と強

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あやつられたのは人間?『欲望の植物誌』

あやつられたのは人間?『欲望の植物誌』

人間の欲望をあやつる植物。気がついたら植物の虜となり、子孫繁栄のための奴隷となる。なんて怪しい。一体どんな色、形なのだろう……。

なんてことはない。本書の主役である4つの植物とは、リンゴ、チューリップ、マリファナ、そして、ジャガイモである。これらは人間が思うがままあやつりたくなるほど魅力的である。リンゴは甘ければ甘いほど良く、季節問わず食べられるなら最高に嬉しい。しかしその結果、人間があやつられ

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『世界ふしぎワンダーライフ50』新刊超速レビュー

『世界ふしぎワンダーライフ50』新刊超速レビュー

写真集は人の個性を十二分に表す。写真家の個性はもちろんだが、それを手に取る読者の個性も赤裸々に映し出す。例えば、鰐部祥平は『朽ちる鉄』を手に取る。土屋敦は『温泉川』を手に取る。内藤順は『パイスラッシュ』を手に取る。それぞれどんな内面を写真集が代弁しているのか、読者の想像にお任せしよう。そして、私が手に取ったのはこの写真集である。

本書で紹介されるのはいわゆる有名スポットがほとんどを占める。シンガ

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