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配膳考

母のいた老健の食事には、汁椀がなかった。
その前にいたサ高住でも、たぶんなかったと思う。
おそらく、ひっくり返したり、自分で加減を間違えてむせたりする可能性を考えてのことだろう。

いつもは食事時間を外して面会に行くのだが、月に1度くらい、私は母を連れ出して近くのファミレスで一緒に食事をした。
大体はナントカ定食。
ごはんと主菜と副菜の小鉢と漬物が入った小皿がセットされている。

汁椀は確かに右手前に置かれていた。
いつもそれを置き直していたことを、昨日の記事を書いていて思い出した。
汁椀を左奥に、主菜の皿を右手前に、小鉢と漬物を右奥に。
そうか、右手前に置くのは、和食の正しいマナーだったのか。

でも、これから高齢化社会になり、老人だけの世帯も増える。
家族の同行なしに一人または老夫婦だけで外食することもあるだろう。
そういうときに、右手前に汁椀を配置するのは危なくないか。

右奥の主菜皿に手を伸ばしたとき、引っかかったなら椀は向こう側に倒れるが、腕を戻す時ならこちら側に倒れる。
汁が体にかかり、熱ければ火傷の恐れもある。

あちちっ!と慌てた一瞬に、椅子から転げ落ちたり、トレー自体をひっくり返したりもありうる。
通路を通っていた従業員が熱々の料理を運んでいるかもしれない。
大人たちの話に飽きた幼児が走っているタイミングかもしれない。

私はついついそういう「もし」を想像してしまうのだが、マナーはそれに優先されるのだろうか。

そもそもそのマナーとやらは、名家?とか貴族?とかの何々家の流儀みたいなのを伝統として受け継いできたものではないのか。
主人(食べる人)とは別に、給仕をする人が雇われているような家だ。
それを日常の食事に当てはめるのは、なんだか現実的じゃない。
ねぶり箸とか刺し箸とか汚かったり野蛮に見える所作を禁じるのとは別として。

フレンチのコースなどでは、先にスープが運ばれて真正面に置かれる。
私は、片付け食いが苦手だ。
スープは奥に置いて、メインディッシュの到着を待ちたいし、可能な雰囲気の限りそうしている。

和食の汁椀を前に置いて、それだけ先に片づけてしまえば、引っかけてひっくり返すリスクは少なくなる。
知人に、先に味噌汁だけ飲んでしまい、奥の皿と場所を入れ替えて食べる人がいるが、私はこの食べ方が大嫌いである。
この皿の入れ替えは、マナー的にはどうなの?と思っている。
手を付ける前に、自分の食べやすい配置への入れ替えのほうがマシじゃない?
生前の父はそそっかしかったので、この入れ替えのときに持ち損ねてひっくり返しそうな気もする。

関東のファミレスには、再考をお願いしたい。
そうよ。
私もこれから老いていくのでね。


読んでいただきありがとうございますm(__)m