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夏休みの魔力  叶

小学生の夏休みなんて、
希望そのものでしかないと思う。

あの頃は気温が30度を超えることなんてめったになく、
ちょっと湿った庭の土が含む夏の朝のにおいが心地よかった。
そんな希望の朝に、
わたしは首からラジオ体操の出席カードをぶら下げて厚底のサンダルで家の前の下り坂を走っていた。
目的地は坂を下ったところにある空き地だ。

わたしの地域では夏休みは空き地にラジカセを置き、
子ども会に所属する小学生たちでラジオ体操をするのが恒例だった。

子ども会の六年生はラジオ体操のお手本係と、終了後に下級生のカードに出席のスタンプを押す係を兼ねていた。
最終日にスタンプを押して貰ったあとは、
子ども会からささやかなご褒美が配られた。

それは鉛筆と消しゴムのセットだったり、
駄菓子の詰め合わせだったり、
今ならそんなもののために走るのはちょっと無理な品々だが当時のわたしにとっては楽しみにするに値する素敵なご褒美だった。

それをわたしは六年間で二度貰いそこねた。寝坊だ。

昔からよく寝る良い子だったわたしは、
ラジオ体操の時間にも寝ている場合があったのだ。

小学校は7時起きで良いのに対しラジオ体操は6時起きと普段よりも早起きをせねばならなかった。

1時間早く起きねばならなかったわたしは、
ラジオ体操から帰ったら二度寝をすることを夏休みにおける日課としていた。
二学期に提出する夏休みの一日予定表にも二度寝の記載を律儀にしていた。

しかし普段より早起きとて、よく寝るわたしとて、
毎日のように寝坊や遅刻をしていたわけではない。
皆勤賞に等しい状態で、よりによって大事な夏休み最終日に限って寝坊したのだ。

わたしはどちらかというと、
楽しみな予定のある日は早起きしちゃうタイプだ。
大人になった今でも変わらず、
友人との予定が入っている日などは前日の就寝時間に関係なくアラームの鳴る前に起きることが多い。
実はこのnoteの執筆をはじめてからも常にちょっとだけ早起きな日々が続いてる。

それではあの夏休み最終日に二度も起きた寝坊はなんなんだろう。
少し考えてみたところ、
わたしは昔から学校やそれに準ずるものがぼんやりと嫌いだった。
または家がすきすぎるのか。あるいは両方か。

夏休み最終日ということは当たり前だが次の日から学校が始まる。
ということは、夏休み最終日以降目覚めなければ学校は始まらない。
こんなトンデモ理論が小さな頭の中で巡っていたのかもしれない。

または夏休みの持つ特別な魔力が、
わたしの目覚めを妨げたのかもしれない。
うん、こちらの方がいくらか素敵だ。

今日もすごく眠たいけれども、
これも夏休みの魔力かしら。
いや、夏休みという概念がない今はもはや夏の魔力か。
そんなことを考えながら、
やはり素敵な方を選んじゃおうと目論んでいる。


それではまた。


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