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もしも満員電車を消したなら  叶

今回のテーマは『もしも世界からひとつだけ消せるとしたら』だ。
今までのnoteのテーマの傾向からは少し外れて、
想像の世界を書いてみよう。

さて、わたしは満員電車を消してみることにする。

混んでいる電車に乗ったことこそあったものの、
所謂満員電車に乗ったのは進学のために上京してからだった。

あれはたしか入学者説明会に参加するために電車に乗ろうとした日だ。
生まれて初めて肉眼で車両からはみ出るくらい人で溢れた電車を見た。

一目見て、これに乗るのは物理的に不可能だと判断した。
同行者に「これ乗るの無理だし、電車混んでたから遅刻するって連絡するわ」と言ったところ「それはないよ。これに乗るんだよ」と信じられないといった口ぶりで返された。

信じられないのはこっちである。
こんなものに乗れという方があり得ないだろう。

わたしは乗れないことを証明するために、
その車両に片足を突っ込み身体を押し込んだ。わたしは乗客に押し返されて先程まで立っていたホームによろけながら再び舞い戻る。

はずだった。

信じられないことに乗れたのである。
しかも同行者も共に。

あれは一体どういう物理現象なのか未だにわからない。
電車は乗客が増えると風船のように膨らむのか、
もしくは乗客が縮むのか。
どちらもあり得ないが、このどちらかとしか思えない。
空いていたスペースなんてなかった。
それにも関わらず乗れたのである。

もちろん満員電車は決して快適なものではなかった。
どこかしら誰かに当たって痛いし、呼吸もしづらく苦しい。

満員電車なるものがすきなんて人間は、
極度の圧迫され好きか一部の痴漢くらいのものだろう。

話はやや逸れるが、わたしは他人の悪意に鈍感という性質を持っている。

ある日、いつものように通学のため人で溢れる車両に乗り込んだ。
ドア付近で身動きのとれなくなったわたしは、
つり革にも掴まることができず、仕方なくドアにもたれる形でなんとか姿勢をキープしていた。
数分経った頃、わたしに密着していたサラリーマン風の男性がわたしのブラウスの襟部分を掴みそのまま下へ下へ力を込めた。
このままだと織姫と彦星の傑作(当note笹の葉ラプソディ参照)が露わになってしまう。

わたしは自身の羞恥と人様にそんなものを見せては不快にさせてしまうとの思いで、
下へ下へと込められる力に反して全力で上に引っ張りあげた。
そして「わたしがしっかりと襟元はおさえておくから、掴まりにくいかもしれないけど大丈夫だよ」という意味の視線をサラリーマンに送った。

この話を当時のクラスメイトにしたところ、
「それ痴漢だから」と指摘された。
彼から指摘されてはじめて、
わたしは人の洋服を脱がすタイプの痴漢被害に遭っていたことに気づいた。
それまでは本気で掴まるところがなかったので仕方なくわたしの襟を選んだと思っていた。
どうやらそうではなかったらしい。
目から鱗どころか背びれまで落ちた。

彼は続けた。
「叶みたいなのが痴漢を野放しにするから、俺のような善良な市民が両手を上げてつり革に掴まる羽目になる。どうしてくれるんだ」
なかなかの勢いで怒られたのだが、
痴漢と痴漢に気づかなかったわたしとでわたしの方が強く責められるのは腑に落ちなかった。

そんなこんなで似たような痴漢被害エピソードがわたしにはあと数個あるのだがここでは省略する。 


と、いうわけで満員電車なるものはそもそも快適ではなく犯罪も起きやすい。
いっそなくしてしまえばいいのではないか。
ある程度スペースのある車両でわたしに密着し襟を掴んでくる男がいたら、
わたしだってそれが痴漢だと判断したに違いない。

満員電車で利益を出している鉄道会社には申し訳ないが、
わたしはやはり満員電車を消すことにする。

最後に痴漢、ダメ。ゼッタイ。


それではまた。



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