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人と違いすぎる私の結婚観〜結婚相談所の鋭い指摘

もし結婚するなら車で15分以上離れた場所で別居したい。会うのは3ヶ月に1回くらいでいい。できれば連絡は必要最低限にしてほしい。
友達でいてくれた方が連絡は取りやすい。友達となら2ヶ月に1回くらい会いたい。連絡は数日おきにしてもいい。
じゃあ、結婚しなくていいや。そういう結論になった。

20代半ばの頃、それでもいいから結婚しようと言ってくれた人がいた。先方のご両親に挨拶に行ってから、雲行きが変わった。私の家庭は一般の家庭と少し違う。先方のご両親は正直に話した自分の家族の話を聞いて顔色を変えた。それから恋人は、両親の反対にどう対応したらいいか分からなくなって困り果てていた。そんな姿を見て、困らせてまで結婚する必要もないしなあ。と思いお別れした。

20代が終わる頃、友人が結婚を焦り出し、会うたびに結婚の話題になった。その中で、「アスは結婚に興味ないっていうけど、それは絶対強がりだよ!」という言葉が気になった。
絶対に後悔するからちゃんと婚活した方がいいよ!と言われ、そうなのかな?強がってるのかな?と本心が分からなくなった。行動力だけはあるのですぐに結婚相談所へ登録しに行った。
有名な大手の相談所で入会の手続きについて聞いた後、個人で営んでいる相談所にも行ってどちらかに決めようと思っていた。その個人経営の相談所で、入会を断られた。
「あなたのような人は、土壇場で断り続けて結局結婚しない。だから入会しないで欲しい。結婚相談所という場所は、タイムリミットを控えて本気で結婚をしたい人が来る場所だから、相手の時間を奪うことになるし、傷つけることになるのです。」とのことだった。
あなたのような人、に至るまでの会話では、何故ここにきたか、これまでどんな恋愛をしたかを聞かれて説明していた。「結婚願望が薄いのは強がりだと友人がいうので」という動機と、家庭を理由に結婚に難色を示されたという話をした。それが問題のようだった。

もっとわかりやすく訳すなら、「あなたのような親子関係で育った人は」だったのだろうと思う。

つまり、私は母子家庭であった。父は、私が生まれてすぐに重度の精神疾患を発症した。私が口をもぐもぐすると、「今俺の悪口を言っただろう!」と殴りかかる状況だったらしい。母親自身の命も危ないから、離婚をした。そして実家に戻ればいいのにパートで生計を立てた。祖母は何度も一緒に住むことを提案したそうだが、母親が断りつづけていたと後に聞いた。

生活は貧困を極めた。食事が3食取れない日もあった。泣いて空腹を訴えると、だったら今すぐ一緒に死ぬか?!それで満足か!!と子供を問い詰めるような母親だった。
私は何も望まない、何も感じないようにした。時々自分が二つに分かれた。そうなると自分はふわふわして楽ちんで、もう1人の自分らしき誰かが勝手に動いて話しているのをみていればよかった。大人になってから、それを解離というと知った。

そのうち母親は水商売をするようになり、家に帰ってこなくなった。置いて行かれた数千円のお金で、コンビニへ行ってお弁当を買った。ガスが止まる。電気が止まる。

私は、そんな暮らしを私に強いた母親を崇拝していた。こんなに強く自立した女性は他にいない。自分もこんなふうでなければならないと思っていた。親を恨むなんてもってのほかだ。感謝してもしきれない。

水商売をしている女など、ヤクザと繋がっているに違いない。そんな家庭とは親族になれないと一蹴するかつての恋人の母親を、世間知らずの田舎者だとすら思っていた。そんなことを言う家庭はこちらから願い下げだと。

結婚相談所の経営者は、「あなたのような人は」といった。
「親子関係を清算してからまたいらしてください」と扉を閉められて、その時の私は「何を清算しろと言うのだろう」と思った。そして「でもやっぱり結婚に興味がないのは強がりなんかじゃなかったわけだ」とほっとしたのだ。ある意味では正しい。

その後、「誰も知らない」という映画を10年ぶりに見直して、考えが一転する。
上映当時にみたときは、こんな酷い母親がいるもんなんだなぁ。という感想だった。ところが、いま見直すと、それは自分の幼少期のことを映像にしたかのような生活描写だった。とてもショックを受けた。

その頃、母親と一緒にいると呼吸が苦しくて仕方がなかった。一人暮らしを始めるとぴたりとそれが収まって、母親に会うと途端に呼吸が苦しくなることを、回を重ねるごとに認めざるを得なくなった。私は母親に会うのが怖いのかもしれないと思うようになった。

母親に会うのが怖い?
違う。私は人が怖いのだ。
生まれてから怒鳴られ、放っておかれてきた。結婚という言葉はそれらを連想する。もう、1人になりたい。心がそう叫んでいた。30年も我慢していた。本当では無い世界を素晴らしい世界だと思わなければ生きてこれなかった。自分の本当の世界は、静かなところにあり、安心できるところにある。そしてそれは、人がいると成り立たない。せっかく手に入れた静寂と安心を、誰にも奪われたくない。
もう、1人にして欲しい。

確かに強がりではなかった。怖いから望むわけがなかったのだ。結婚相談所の経営者は、あなたは結婚を怖がっている。それを克服するには母親を克服することだと暗に見抜いていた。彼女がそれを見抜くということは、私のような人が入会したことがあるということになる。彼女らは本心と向き合うことをしないまま、いつまでも成婚に至らなかったのだろう。私が何故結婚に積極的になれないのかをよく考えないまま、そこを訪れたように。

私は人は怖く無いらしいとわかるまで人とは暮らせない。そしてそれがいつになるのかわからない。あの結婚相談所に訪れた「私のような人」たちはどうしているのかなと時々思う。


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