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絵本「森のおくりもの」が私たちに届けてくれたおくりもの


絵本「森のおくりもの」杉の子ジュウちゃんの大冒険 とは?

 私たちが生きていく上で必須ともいえる、ふるさとの森が持つ力(=森のおくりもの)をテーマに、小国町森林組合が絵本を制作しました。森と地域、森と子どもたち、そして親子の接点を増やすことを目的とし、2024年1月に完成したばかりです。

 物語の主人公は、森に住む杉の子・ジュウちゃん。ジュウちゃん(といつもまわりを漂っている友達の妖精さん)は、大好きな森の元気がなくなってしまったのでお手入れをしていたところ、川辺でうっかり足を滑らせてしまい、海まで流されてしまいます。森に帰る冒険の途中、色々な人たちに助けてもらいますが、みんなの町で困ったことが起きている様子。私たちの森を元気にすれば解決するかもしれない!と森の大切さを伝え、一緒に森を元気にしようとする物語です。 

 完成した絵本は、熊本県内の図書関係や子ども施設等を中心に、読み聞かせ活動や、森や水に関わる学習を行う団体など、ジュウちゃんの想いに賛同頂ける団体へ100冊限定で無料配布しています。
 身近な水の流れを軸とした物語を描くことで、その源流である森林の重要性を知り、ふるさとの森を守るために何ができるかを考えるきっかけになればうれしいです。

阿蘇の文化を発信するTSUTAYA BOOKSTORE菊陽で、絵本リリース記念の読み聞かせイベント
読み聞かせボランティアさんの声で、おうちの人の声で、子どもたちにしみいりますように


絵本プロジェクトのはじまり

 「コロナ禍で、絵本を置くことができなくなったんです。ここに、小国の森と熊本の水がつながっていることがわかるような、展示なんてできないでしょうか?」
 そんなご相談を頂いたのは、イオンモール熊本の小国杉対応ご担当のKさん(当時)。実はイオンモール熊本と小国町森林組合は「共育」プロジェクトとして2018年から連携しており、館内には、子どもたちが遊べるキッズゾーンやフードコート等々に、小国杉がたくさん使われています。

熊本のマチで暮らす人々に、熊本の天然木に触れてもらえる空間がたくさん
2階のキッズトイレやあそびのゾーン「トモイクの森」。
小国杉アロマも香る親子の休憩スペース。現在は絵本設置も復活しています

 子どもたち向けの水の学習に長年取り組んでいるイオンモール熊本。学びに使ってもらえるような、展示パネルにもなる絵本を作りますかという話を始めたのがおそらく2021年のことでした。
 しかし気持ちはあれども、まずは先立つものの確保です。その辺りが上手でない私たちを見かねて手を差し伸べて下さったのは「森の女神」。資金調達の方法を探してくれたり、出版のことをリサーチしてくれたり、書類作りへの助言はもちろん、仕事力とネットワーク力を総動員頂きました。さらには、小さな森林系団体の気持ちも汲んでくださるし、諦めそうになったときの気持ちのケアまでしてくださるのが“女神”と呼ばれる所以。そのお力添えのおかげで、動き出すことができたといっても過言ではありません。

注:森の女神は私たちの妄想ではなく、実在する緒方さんというコーディネーターさん
元バリバリの県職員から華麗なる独立を果たし、官民どちらにも寄り添ってくれるリアル女神です


絵本作家、ワル・マックスさんとの出会い

 2022年の春、「こんな絵で描いてもらえたらいいよね」、組合長が近所のラーメン屋さんでもらってきたのは、美しすぎるイラストの手ぬぐい。聞けば、すぐ隣町に住んでいるワル・マックスさんが描いたものだそう。
 スウェーデン生まれでありながら、日本語検定一級を持ち、小国人より日本語を使いこなすという地元の有名人です。日頃はインバウンド向けの自然系アクティビティや地域に潜る商品開発を行っているそうですが、それだけでなく、ジャパンカルチャー大好きドラゴンボール育ちで、絵を描くことはライフワークという才能の持ち主。副業でイラストや絵本を描いているということがわかり、迷わず相談となりました。組合長の目は「彼で決まりだ」と語っています。

森林アクティビティなども企画されている、阿蘇の自然を愛するマックスさん 
絵や物語のお仕事のご相談はこちらまで


細部まで描き込まれた、かわいくてリアルな世界

 絵本を開けば、美しいイラストが広がり、表情豊かなキャラクターが次々に現れます。そして、すべてのページの隅々までも見てほしい。いもむしさんがきのこのおうちから顔を出していたり、背景でにわとりさんがミミズをつついたりしていて、とにかくかわいい!お話がまだわからない小さな子や、イラスト好きな大人まで、ほっこりしてもらえると思います。

 他にも、実在するガソリンスタンドとか、材木をつくる製材工場さん、里山のかやぶき屋根の建物など、地元勢には胸アツなポイントもたくさん散りばめられていて。描かれた葉っぱの1枚1枚や山々の重なりにもリアリティがあるのです。これは地方の山間の町に住んでいるマックスさんだからこその解像度の高さ。杉の子・ジュウちゃんが暮らす世界「小さな国」は、ファンタジーでありながら、どこにでもある日本の小さな農山村の風景でもあるんです。

 ジュウちゃんはヒトでも妖精でもない、何者?漁師さんは女性なのかも?大工さんは海外の人なのかな?といった、読み手が「性別」「国籍」といった既成のイメージを取っ払って受け取れるような余白がたくさんあるのも、この絵本の味わい深さ。私たちもあえてそういった設定はマックスさんにも聞かず、余白のままにしていたりします。

ジュウちゃんと妖精さんがかぶりつく、ふっくらしたにんじんやおにぎりの美味しそうなこと…
ちなみにジュウちゃんの名前の由来は「樹(ジュ)」からきているそうです


熊本県庁さんの親切さが爆発

 今回の資金調達は、熊本県の補助金「夢チャレンジ事業」を活用させて頂きました。そのご担当さんは、地域に飛び出す系の公務員として有名な、レンタル公務員こと村橋さん。この時点で、プロジェクトがうまくいく予感しかしないですよね。
 補助金申請の受付というのは行政マンにとってはきっと基本のお仕事で、書類を淡々と作って、そこに感情を乗せずとも進められるものだったはず。でもそうじゃなくって、自分の脚で絵本の配布先をつないでくださったり、はたまた自ら絵本の読み聞かせのおにいさんを買って出てくれたり(しかも爽やかな笑顔でよく通る美声!何それずるい!)、一緒にクリエイティブな仕事をしてくださいました。

仕事できて人間できててコミュ力も高い、何でもできる系公務員村橋さん
(弱点を知ってしまいましたがそれは秘密)

 そして、いざ絵本をたくさんの同志に届けたい!となった時に、どうすれば同じ気持ちの企業や団体につながれるのか。山奥でひっそり活動する小さな森林組合は、これまたツテは少ないのです。
 「森の団体とつながりたいんです」「水の団体とつながりたいんです」「図書室や読み聞かせをしている団体と…」新人の飛び込み営業か、というぐらいの熱意だけ持って、たくさんの県庁マンのみなさんを訪ね、あそこに投げ込むとそういう人が多いよ!私からつないでおきますね!といった、情報やご縁をたくさん頂きました。
 その勢いで、今や熊本県知事となられた木村敬副知事(当時)のお部屋にまで突入したのはここだけの話。熊本県さんやさしい。ご多忙の中ありがとうございました。

今や熊本のリーダー、木村知事。イベントにもお立ち寄り下さりありがとうございました!


全国に旅立っていった絵本たち

 そんな具合に、応援が応援を呼んで、私たち事務局が体力勝負で奔走したり、地を這いながら無理やりお願いしてまわる…というようなこともなく、あっという間に絵本たちは飛び立っていきました。熊本を中心に、大分、福岡、山口、広島、愛媛、滋賀、長野、千葉…!と、全国からお申し込みを頂き、たくさんのメッセージを頂いています。

 保育園の年長クラスで読み聞かせを行いました。わかりやすい物語でみんな[木!すごい!]と木をリスペクトしてます。 また、みんなの森はどこだろう?との問いかけに、ほらあそこ!と街から一望できる川の流域の山々を確認するなど、とても良い気づきとなりました。 子どもたちには、山にルーツを持つ子どももおり、[僕の森はじいちゃんちの森だ!]と祖父宅の集落を更に誇りに感じる園児も居ました。

八代市 トレイルランナー Yさん

 子どもたち(0、1、2歳から中学生)に本を読んだりお話を届けているおばあちゃんです。町の図書館をして絵本や本の貸し出しもしています。 木や森はとても大切です。自然と共生しなくてはいけないのに、人間の勝手には出来ないのに。その事をSwedishのwallさんが、日本の森を守る本を書いて下さっていて「ありがとう」です。

長野市 図書室のある宿泊施設 Kさん

「感想に、ジュウちゃんがとても小さかったです!」って子がいて、ほっこりなりました。 他にも「自分の家の近くに川があるから私もお掃除しようと思います」って意見もありました!

小国町 ラジオパーソナリティー Tさん

 熊本市内の小学校で読み聞かせしました。すんなりと山から海の繋がりが伝わる内容で、絵もとても素敵でした!5年生の時に小国杉の勉強をするらしくて、今ちょうどそのタイミングだと喜ばれました!勉強済みのみんな、スイスイ頭に入っている感じが伝わってきてよかった!!きっとよく浸みてると思います。潜ませたオルタナティブな視点が子どもの心に自然と馴染んでいく。そんな種まきをしてくれる1冊になっていると思いました!!

熊本市 フリーライター Nさん

 読み聞かせに参加した子どもたちはワル・マックスさんが書いたイラストや物語の内容にとても興味を持って終始真剣に聞いてくれました。
 私どもの活動はハチドリのひとしずくほどではありますが、次世代を担う子どもたちに森や自然環境の大切さや、故郷の自然への感謝、私たちは自然に生かされていることなどを伝えるきっかけの一つになればと思います。これからも機会がある度に「もりのおくりもの」の読み聞かせをとおして、多くの子どもたちに未来につなぐ種まきをしながら、想いを伝えていければと思います。

美里町 自然学校運営 Mさん

 絵本を受け取ってくださったみなさんの温かさや、子どもたちの感性のみずみずしさたるや。やってよかった…!とプロジェクトメンバー一同震えています。森のおくりものを届けたら、今度は私たちがおくりものをもらってしまった。そんな気持ちです。

 東京都内、青熊書店にも1冊届いているそうですので、首都圏の方も是非足を運んでご覧頂ければと思っています。


二度見した、、作家の三浦しをん先生から応援のメッセージ!!

 そうこうしていると、森の女神の計らいで、作家の三浦しをん先生のお手元にも絵本が届いたそうで。そんなことってあるんですね?いやないですよね普通。驚いているうちに、編集者さん経由で先生から応援のメッセージを頂いてしまいました。感激です。内容は私たちだけでニヤニヤさせて頂きます、ごめんなさい。
 三浦しをん先生といえば。林業と生きる人たちならきっと読んだことがありますよね、小説「神去なあなあ日常」。2014年公開の映画「WOOD JOB!」の原作にもなったあの作品、もう一回読みたくなってしまいました。


目指すは「地元の子どもたちが大人になるまでに1度は読んだことがある絵本」

 この絵本をつくるにあたって、木と森を子どもたちに伝えるチーム「おぐに木育レンジャーの会」や、地域の読み聞かせボランティア「どんぐりころころの会」、そして保育園の園長先生、教育委員会や町役場の職員、高校生と地域をつなぐコーディネーター「ogunist」など、地域の子どもたちのすぐそばにいる大人のみなさんに集結頂き、伝えたいことの方向性や言い回し表現などを細かくチェック。
 熊本が誇る木育四天王の一人、熊本大学の田口浩嗣教授にも大筋の流れにおすみつきを頂いて、最後は小学校の国語の先生に赤ペン先生をしてもらって校了です。

お話が長すぎると親が先に眠くなるよね…なんて子育て世代のリアルな気持ちも飛び出します

 地域のみなさんと作ることができたからこそ、地域に広がっていくのもあっという間でした。保育園や図書館等での読み聞かせ会や、TSUTAYA BOOKSTORE 菊陽地域の道の駅のギャラリーでの原画展の開催など、リリースイベントを開催させて頂いただけでなく、町の図書室や、病院の小児科前の本棚などでおすすめの本として紹介頂いているのを見かけたりして、うれしく思っています。
 地元ラジオ局・エフエム小国のパーソナリティさんも生放送で朗読して、声で届けてくれました。パソコン前にへばりついている森林組合職員(この記事を書いている人)よりも職員かのように、絵本を各地に持ってでかけ、イベント先で読み聞かせを企画してくれた杉の発明家・Dr.杉太郎氏にも感謝です。
 そして、プロジェクトの発端となったイオンモール熊本の2Fトモイクの森にも、無事置いて頂くことができました。

すてきな展示をコーディネート頂いた道の駅小国ゆうステーションギャラリー

 実際に読み聞かせの会場に行ってみると、子どもたちは食い入るように絵本を見てくれ、内容も伝わっているようでした。スタッフは感無量です。絵本はできたし配り終わっておしまい!という一過性のものではなく、小国生まれの絵本だよって、地元でずっと読んでもらえるよう森から見守っていきたいと考えています。目指すは、「地元の子どもたちが大人になるまでに1度は読んだことがある絵本」です。

いいえほんだったよ!しんりんくみあいのひとにきいてみるといいよ!という年長さんの声も

 3月21日は国際森林デーでしたね、ということで阿蘇ジオパーク推進協議会さんも、世界に向けた発信をしてくださるとか。いつか、世界の子どもたちや、マックスさんのふるさとでも読んでもらえるような、英訳版「もりのおくりもの」とか出せるといいな、と夢はふくらみます。


配布申込はこちら

 こうして、小さな森の国から湧き出した水が、川になって、みなさんのところに流れていくようなイメージで、限定の100冊はあっという間に配布されていきました。つまり、ジュウちゃんの仲間になってくれた人が少なくとも100人はいて、その先々でたくさんの子どもたちに読まれていると思うと、一体どれだけの人々の目にふれているのでしょう。本当にありがたいです!
 申込し損ねた…という方、このnoteを最後まで読んでくださった方はこちらからこっそりどうぞ。

 そして、ジュウちゃんの冒険はこれからも続きます。全国各地に、こんなに頼もしい仲間が100人以上もできたのですから。まだまだ応援よろしくお願いします!


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