浅生鴨

たいていのことは苦手です。

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マガジン

  • 浅生鴨の短編三〇〇

    週に二本(ひと月に八本)の短編を三〇〇本掲載します。一篇ずつでも購入できますが、マガジンをご購読いただくと、ほんの少し割引になります。あとコメントは励みになります。誤字脱字の指摘も喜んで!(あまり喜ばない) このマガジンの連載をまとめた 第一集『すべては一度きり』 https://amzn.to/3MSgEOq 第二集『たった二分の楽園』 https://amzn.to/3P7uTRi 発売中。

  • いつか見た色

    短篇小説を連載しているものとは別に、日々あれこれ考えた随想的小文を書き連ねるマガジンです。たぶん週に一回程度(月に4回ほど)、書ける範囲で更新していきます。『短篇三〇〇』のような癖のある文章はちょっと苦手だなという方も、こちらはもしかしたら気軽に読めるかも知れませんし、やっぱり読みづらいかも知れません。

  • 浅生鴨の『ラブレター』制作日誌

    幡野広志さんの著書『ラブレター』を制作する日々の記録です。

ウィジェット

    • 浅生鴨の短編三〇〇

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    あざらしのひと

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    伴走者 (講談社文庫)

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    どこでもない場所

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    猫たちの色メガネ

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    面白い! を生み出す妄想術 だから僕は、ググらない。

    浅生 鴨

最近の記事

影踏み

 ルールはいたって簡単だった。影を踏まれた人が次のオニになる。それだけだ。だからみんなモロコに影を踏まれないよう一斉に逃げ始めたのに、サバクだけは広場の真ん中でじっと動かずに立っていた。 「なんで止まってるの?」  怪訝な顔をしてモロコはゆっくりサバクに近づいたが、それでもサバクは逃げようとしなかった。にこりと笑ってモロコを見る。  これじゃつまらないよとモロコは思った。  夕方になれば影は予想以上に長く伸びるし、逃げる方向を間違えると、人はその場から上手く離れられても影の向

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    • 地上

       久しぶりに渋谷へ行ったら、大きなオフィスビルが駅の周りにたくさん建っていて、街の雰囲気がずいぶん変わったように思った。たぶん以前からこうした高いビルは建っていたのだろうけれども、少なくとも僕はあまり意識したことがなかった。

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      • 一番の願い事

         金曜から徹夜が続き、なんとか井間賀が職場を出られたのは日曜の朝になってからだった。とは言ってもまだまだ仕事が終わったわけではない。一度帰ってシャワーを浴び、着替えたらすぐに出社するつもりだった。 「あああ」  ビルのエントランスを抜けたところで井間賀は大きな溜息をついた。曇っているのに日差しが目に入って眩しかった。全身がやけに重い。  足を引きずるようにフラフラと自宅へ向かっていると、八幡神社の境内で蚤の市が開かれているのが目に入った。 「そうか、日曜だもんな」  まだ朝早

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        • 本日の会見で

           補佐官がマイクを持つと会見場内のざわめきがすっと落ち着いた。 「それでは定例の官房長官会見を行います。長官、お願いします」  袖から足早に登場した官房長官が演台に着くのと同時に、会場にいる記者のほとんどがパソコンのキーボードに指を掛けた。未だにノートとペンを使っている者は数名しかいない。  長官はマイクに顔を近づける前に、まず足元に置かれている黒いケースに目をやった。硬質プラスチック製のケースは、幅は三十センチほどだが長さは二メートル近くある。  あのケースにはいったい何が

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          だらだらと音楽の四方山話を

           僕が仕事として音楽の制作をやっていたのはもう二十年以上前の話で、そのころと今とではレコーディングのスタイルも録音に使う機材もまるで違っているから、何かの機会に音楽制作の現場へ足を踏み入れると驚くことがたくさんある。大きく変わったものが三つあるとしたら、ミュージシャンと楽器と録音機材だ。それって音楽制作の全部じゃないかと言われそうだけれども、その通りで、全部が変わったのだ。

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          欲望の都市

           四十七階にあるオフィスの窓から眺める街は、不揃いな箱を並べて積み上げたようだった。屹立するビルたちは、なんとかそれぞれの特徴を出そうと細かな意匠に工夫を凝らしてはいたものの、その差は僅かなものだったし、デザインよりもコストを重視するから結局はどれもこれもが似たようなガラス張りかモノトーンになって、街から空と色彩を奪っていた。 「おはよう」  ダリンが会議室に入ると、すでに数人が長いテーブルについてコーヒーを飲んでいた。天然木が使われているテーブル板の中央には黒い表紙のファイ

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          埋め樫

           昨日会社から持ち帰った仕事を二階の自室で片づけたあと、利揮はひと息入れようと階段を降りて居間に入った。炬燵で母がテレビを見ながら蜜柑を剥いている。 「この蜜柑ね、汐樋渡さんとこでもらったの」  そう言って母が蜜柑の入った籠を持ち上げると、甘い香りが利揮にも届いた。 「お茶まだある?」  利揮は卓袱台の急須を指した。ずっと集中してパソコンに向かっていたせいか、なんだか逆上せているようで、冷めた茶が飲みたかった。庭の植木の間から春先の柔らかな光が落ちて、古い急須の表面を照らして

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          杖がある

           あいかわらず杖をつきながらヒョコヒョコと歩いている。人工に換えた関節の可動域はあきらかに広がっていて、二十年以上できなかった動作ができるようになったから、人工関節にして良かったと僕は思っている。

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          春が来る

           春はとても重要な季節だ。草木が芽吹き、生き物たちが活動を始める。すべての命が蒼く輝く季節である。  多くの人々が待ちわびるだけにかつては競争も激しく、二〇五十年代半ばには一部の大手業者が買い占めたため、多くの人が春を迎えないまま何年も過ごすことになった。  八十年代の終わりになってようやく春に関する法律が成立し、これで安定的に供給されるだろうと国民は期待したが、やがて国会議員や政財界の有力者の中に春を不正取得している者がいることが発覚し、大疑獄に発展した。 「我が党は国民の

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          出演料

           三年生の教室は校舎の四階にあって、窓際の席から遠くを眺めると桜の木が花を一斉に咲かせているのが目に入った。いつもの年よりずいぶん遅く咲いた桜は綿飴のようにふわふわとした塊になっている。  始業十分前のチャイムが鳴った。  ざわめいていた教室が一瞬ふっと静かになったあと、さっきよりも音量を落とした話し声が教室の中にゆっくりと広がっていく。  里桜は机の上に教科書とノートを重ねて置き、その上に筆箱を乗せた。  開けた窓から流れ込む風は磯と埃の混ざった匂いがしている。夏の匂いだっ

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          モノクロームの景色

           いきなり下から腰を突き上げるような衝撃が加わって、僕はハッと目を覚ました。飛行機に乗るといつも離陸前に寝て、着陸するときのこの衝撃で目を覚ます。途中で引き返したり、予定が変わったりしていない限り、おそらく札幌に着いたのだろう。

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          一番いい思い出

           高い天井に取り付けられた薄暗いダウンライトから落ちる明かりは、部屋のところどころに楕円形の光円をつくりだし、メインモニターからの光と混ざり合っている。  コンソールの中央に座っていたチサは隣の席で送信ボタンが押されるのを確認したあと、首を左右に曲げてからゆっくり肩を回した。そのまま確認用のサブモニターをじっと見る。  やがて送出サーバーからデータの受信完了を知らせる信号が戻ってきた。サブモニターの画面に数字が流れ始める。5、4、3、2、1。  無事に送出が始まった。緑色に光

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          祝祭を担う者たち

           上野駅を出て緩やかな坂を上り、公園に入る。気温は五度くらいだろうか。傘を持つ手が悴んで痛い。雨の中、中国からの観光客らしき人たちが、花が開いたばかりの桜にスマートフォンを向けている。美術館のそばを通り抜け珈琲店のある角を左に折れると、やがて道を挟んだ両側に門が現れる。右手の門には東京藝術大学卒業式場と書かれた看板が立てかけられており、その前で着物を着た卒業生が母親とともに写真を撮っている。門の脇には看板前で写真を撮るための長い行列ができていて最後尾というプラカードまで用意

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          リカバー

           他人に頭を触られるとつい眠くなるのは、はたして自分だけなのか、それともみんなもそうなのか。目を閉じたまま甲斐寺はそんなことをぼんやりと考えていた。  ときおり髪がキュッと引っ張られると頭皮に心地よい刺激が加わり、思わず鳥肌が立ちそうになった。スシャッ、スシャッとリズミカルに響くハサミの音が、ゆったりとした音楽に混ざり合い、甲斐寺を深い眠りに誘う。  しばらく風邪気味だったこともあり、髪を切るのは久しぶりだった。 「ずいぶん伸びましたね」  いつも担当してくれる理容師が、そ

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          ホームランは怒っているか

           電話に出ると若い女性が「香川県内のホームランは怒ってますか?」と聞いてきた。  僕は耳から入ってきた音を、そのときの自分の都合に合わせて勝手に改竄する癖があるから聞き間違いが多い。どう考えてもこれは僕の聞き間違えだろう。さすがにホームランについて僕に聞くのはおかしい。 「すみません、もう一度お願いします」 「年内のホームランは怒ってますか?」  女性は早口で繰り返す。やっぱりホームランのことらしい。 「いや、申しわけありませんが怒っていません」  わけがわからないまま僕はそ

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          祖母のお守り

           古いアルバムが必要になって、普段はあまり触れることのない天袋を開いた古庄敏夫は、見覚えのない箱を見つけた。桂でつくられた十五センチ四方ほどの小さな木箱には、全面に花の模様が立体的に彫られ、真鍮製の留め具の周りには螺鈿がはめ込まれている。荒々しくも迷いのない鑿痕は、これをつくった職人の実直さをそのまま表しているようだった。見るからに手の込んだ逸品である。  俊夫は首を傾げた。生まれてから三十数年ずっとこの家で暮らしているが、こんな箱は一度も見たことがなかった。  そっと蓋を開

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