大人の嗜み
海岸線に沿って伸びる道は、右へ左へと弧を描いたあと、半島の陰に消えている。
小高い山の上に広がった青い空は、群れるような雲を揺蕩わせて、まもなく終わる夏に別れを告げているようだった。
海の反対側は防風林になっている。道に沿ってどこまでも続く松林は、強い海風に抗いながら枝を広げ、その奥にあるはずの小さな集落を視界から完全に消している。ただ風の音と波の音が混ざり合うだけで、ここには時間などないように思われた。
ドドドドッド。
腹に響くほどの重低音の唸りがどこからともなく聞こえてきた。音はだんだん大きくなっていく。
ドドッドドッドッドドッ。
ブオーン。
ババババババババ。
重低音の唸りに遠吠えが紛れ始める。
不意に、大きなカーブの向こうからオートバイが現れた。一台や二台ではない。十台、二十台、いや四十台近いオートバイたちがエンジン音を轟かせながら、長く伸びた一つの塊となってゆっくりと風を連れている。どれも大型バイクばかりだ。
おそらく暴走族なのだろう。最近はあまり見かけることのない種類のバイク乗りたちだ。
やけに角度のついたハンドルに三段シート、焔のようなカラリーングと直管マフラー、そして漢字だけが綴られた幟。走ることよりも見せることを重視した装飾である。
それにしても休日の、しかも真っ昼間に集団で暴走するバイクなど、今どき正月のニュースでしかお目にかかれない。
バイクの派手さに比べるとライダーの服装は至っておとなしいものだった。
標準的な革のライダースーツに硬そうなブーツは、危険を顧みずバイクで暴れ回る暴走族の出で立ちというよりは、いかにも安全を優先しているように見えた。中には肘当てや膝当てをつけている者もいる。
パラリラパラリラパラリラパパパッ。
甲高いラッパの音が鳴り響くとライダーたちが思い思いに片手を突き上げた。
ブオーン。ブオーン。
音に驚いたのか海鳥たちが一斉に飛び立った。吹き上がるエンジン音が海を渡っていく。
オートバイの群れは伸びたり縮んだりしながら、いつしか半島の向こう側へゆっくりと消えていった。
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