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#8 暇だからアメリカ横断する―大晦日はワニを横目に走る

大晦日ですね。良いお年を。

今日はエバーグレーズ国立公園へ足を伸ばしました。

朝のひととき

案の定寝坊を決め込み、起きたのは8時ごろ。

昨日、NASAを見学したあと3時間ほど南へドライブして、マイアミへと移動し、夜中市内のAirbnbのお宅へ転がり込みました。疲れたー!

大きな平屋のお家で、一部屋20畳はあるかという超絶広い家の一部屋ずつにそれぞれが泊まり、トイレやキッチンを共同で使用するタイプの貸家でした。

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朝起きると、コーヒーの良い香りがしています。横の部屋で寝ていたMikeが僕に気付いて声をかけてくれます。

おはよう。Ninja(ニックネーム)。コーヒーはいるかい?

僕は、もちろん。と伝えると朝の静けさの中で真っ白な湯気を立てるカップが二つカウンターに用意されました。

香りのいいコーヒーとカウンターを挟んで少しお喋り。MikeはAmerican航空で働いているパイロットらしく、今日の朝からはバハマに飛ぶのだそう。この家はよくマイアミに来た時に使っている常連らしく、どうりで使い慣れているものだと感心しました。

「エバーグレーズに行くんだけど、どこが良いかな?」と聞くと、「それなら、東から入るここが良いよ。何が出来るかはビジターセンターで確認してね」と教えてくれました。そして、コーヒーを飲み終えると、ユニフォームに着替えなきゃと言って、支度を始めました。

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エバーグレーズ国立公園でドライブ

エバーグレーズ国立公園はフロリダ半島の南西を覆う巨大な湿地。アメリカの国立公園でもトップ3に入る巨大さゆえに入り口も複数あり、中は水が張った浅い湿原となっているため、その公園内を突っ切ることは不可能に近いです。

南東から入るルート(アーネスト)、北から入るルート(シャークバレー)、西から入るルート(ガルフ)と三つの入り口があり、Mikeはその内、アーネストが良いと教えてくれました。

ビジターセンター

(わかりますか。この広さ。広すぎてよくわかりません)

初心者向けと言われているのは、北から入るルート。
しかし、良いと言われたら行くのが旅人というもの。早速僕も支度を始めて、車を飛ばします。

しばらくはアメリカの田舎道を走ります。よたよたと歩く黒人のおじいさんたちの間を抜けて、走っていくと農場が広がって行き、その先に突如として現れたのがエバーグレーズ国立公園でした。

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あいにく空は真っ白。ところどころ灰色掛かっているでしょうか。今日も天気は良くないなぁ、と思いながらビジターセンターで情報収集。

ここから奥に1時間ほど走るとフロリダ半島の南西、メキシコ湾に面した所にフラミンゴと言うビジターセンターがあり、そこではマナティとクロコダイルが見られると言います。その途中、いくつか良いトレイルの場所を教えて貰いました。

じゃあ、とりあえずフラミンゴに行ってみるか。

と、決めて車を走らせます。アリゲーターを轢かないように注意しながら……。

疎らに葉をつけたヌマスギの林が道の両側に広がっています。その足元はぬかるんでいて、所々きらりと水面が光りました。

しばらく走ると、視界が開けます。
左右一面、背の低い水草が顔を出す広大な湿原が広がりました。

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「おぉー」と思わず感嘆の声が漏れます。
思い描いていたエバーグレーズのそのままの風景でした。

観光地って話だけ聞いていたり、断片的な情報だけ持っていたりすると、意外とそのイメージと実際の場所にギャップが発生したりするものですが、ここは間違いなかったですね。

地平線まで続く湿原。
広大な自然がそのまま在る。

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そんな場所です。

僕は何事もなくフラミンゴに着き、軽くサンドイッチでお腹を満たします。この時点で、空は晴れ模様になり、気持ちの良い青空が広がり始めます。フラミンゴ周辺では特に何も無かったので、来た道を引き返しながらトレイルに向かいました。

トレイルと言っても1kmあるかないかくらいのものが多かったので、散歩的な感じですね。でも、やはり、水の上にかかる木製のデッキから見渡す湿原は圧巻。足元に目を落とすと、蓮や水草の間は澄んだ水に満たされ、更に目を凝らすと、ガーが、ブルーギルが、その他多くの魚たちがゆらゆらと漂っていました。
泳いではおらず、本当にその場所でとどまって漂っているのです。皆が皆、水面で、水底でその場にすっと落ち着いているのです。魚は泳ぐものだと思っていたので、とても不思議な光景でした。

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そして、木の幹の下の水草の上でのんびりと日向ぼっこをするアリゲーターが!!

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(真ん中で日向ぼっこしています。遠くで見る分には可愛いですね)

NASAの敷地内でも数匹赤ちゃんのアリゲーターを見かけたのですが、こちらはそれよりも大きかったですね。カメラを気にせず、のんびりとふわふわの水草の上に乗って、口をぱくぱくさせる姿は可愛いものでしたね。

それだけでかなり満足はしていたのですが、やっぱり欲がムクムクと湧いてきます。道を通せんぼするアリゲーター見れなかったな……。有名な北側の公園はどうなっているんだろう……。

でも、時間はもう2pmになりそうだ。
ここから、50kmほど離れているので少なくとも着いたら3時過ぎになっているだろう……。今日は諦めるべきか……。いや、でも……。

逡巡をしましたが、僕は「あかんかったら、その時はその時や」と覚悟を決めて、北のShark Valleyへのナビを入れました。

果たして、この判断は正しかったのか……。


■Shark Valleyへ

そわそわする気持ちを抑えて安全運転で北の入り口へと向かいます。

こちらは園内のガイドマップによると、細長く楕円状に伸びた形の周回出来るトレイルがあり、その長さは一周24km。定期的なシャトルも運行されており、人々はそれに乗って道端で寝そべっているアリゲーターや、サギのような大きな鳥をまじかに見ることができるのです。

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そして何より、このトレイルではサイクリングが楽しめるのです。僕はどうしてもこのサイクリングをやりたかった。自転車に乗って関西から北海道の宗谷岬までキャンプしながら行ったことのある僕にとって、自転車はこのくらいの距離ならば至高の乗り物なのです。
しかし、もう借りる時間が終わっていたら。明日の午前に回せばいいが……。明日は別の予定を組んでいたし、それもやってみたい……。という一抹の不安の中、漸く僕は日が傾き始めた国立公園へと再入場を果たすのです。

ちなみにですが、この時は確か入場料は25ドルか30ドル。僕は年間パスを持っていたのでスルー。アメリカには国内の国立公園すべてに共通する年間パスが80ドルで売っています。去年のが切れていたのでホワイトサンズの時に買っておきました。

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3つ位回れば元が取れてしまう優れもの。デザインもお洒落です。去年は可愛いアマガエル。今年はフィヨルドの上に輝く綺麗な星でした。アメリカの国立公園は有名な場所を合わせても片手じゃ足りないので、アメリカで国立公園を回るなら買っておいた方が良いです。

さて、やっとのことで入り口に着いた時は、時刻は既に3時過ぎ。にも拘わらずParking LotはFullであり、しょうがなく外の路肩に車を停めます。思わぬ時間のロス。心も足もはやります。

幸いエントランスとビジターセンターはそれほど遠くない場所にありました。本日二回目の年間パスを見せて、エントランスを華麗にスルー。

レンタルの場所へ向かいます。
まだ開いていた!!

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僕は頬を綻ばせて、受付に挨拶します。
「こんにちは。自転車を借りたいのですが」
「いいけれど、5時までに返すことになっているからね。それを過ぎると違反代をとるよ。それでも良い?」

時計は3時半を示しています。
「もちろん!」
僕は迷いなく二つ返事で返しました。24kmなら1時間で走れるだろうと目算をつけていたからです。

免許証を預けて、返却した時に清算を行うということです。なるほど、燃えるな。
「じゃあ、そっちの左側にあるやつなら何でも選んで良いよ」

と言われて、颯爽と自転車置き場に行きました。
種類はほぼ1種類しかなかったのですが、丁度良いサドルの高さのものを選んで、踏み出します。

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その時の感想がこれ。
お、重っ!!
その瞬間、目算に雲がかかったのは見ないことにしました。

そりゃそうだ。オフロードでも走れる極太のタイヤを履いたピストバイクですもの。ピストバイクとは、固定ギヤで一つのチェーンがそのまま一つのギヤに掛かっているバイク。ラチェットが無いので空転することはありません。漕げば前に進み、逆に漕げばブレーキ(後ろ向きに進む)というバイクです。

曲がりなりにも(一番安価レベルの)ロードバイクに乗っていた感覚からすると、力が速さに変換されていない感がすごい。でも、やるしかない。
 
細長いトレイルの折り返し地点にある展望台までは片道約11km、そんなに遠くはない。路面は車が一台通れるよりも少し広く、コンクリートで舗装されていて、時間が時間なのか人も少ないので走るのには問題ない。行ける。

そう思って、完走することを決めて漕ぎだしたのですが、1分後には不安は完全に霧散していました。

 
「気持ちいいー!!」

 
思わず笑みがこぼれます。

すれ違うライダーに向かって微笑し、ワニを見て頬が上がり、汗を蒸発させる風を受けてにやにやする変態、ここに誕生

もう、最高でした。

自転車は一説によると、人間が作り出した全ての乗り物の中で、エネルギーの変換効率が最も良い乗り物だそうです。

――自転車、素晴らしいな。

そう感じながら、僕は風を切って、夕陽に染まる湿原を真っすぐ走る遊歩道を駆け抜けていきました。

右手の路肩には、アリゲーターがのそりと休憩しており、サギなどの鳥たちも人を恐れず思い思いに過ごしています。道に沿って水路が作られており、背の低い木もそれに並んで生物たちに惠みを与えているのでしょう。木々の間からは広大な湿地が覗きます。
左手は視界を遮るものは何もなく、ただひたすら夕陽に染められた湿原が果てしなく広がっています。

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ごうごうという風の音。ぎゅっぎゅっとなるペダルの音。時々聞こえる鳥の声。透き通るような青い空。

左側へ伸びた僕の影は、一定のリズムでペタルを漕ぐ姿が水と草の上を疾走しています。

本当に、今日ここに来てよかった

心からそう思って、ペダルを踏み続けます。
人の声も聞こえないような大自然の中で、僕は風になりました。

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無事、30分で展望台に着き、壮大な360度パノラマを思う存分楽しみます。

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時計を見ると4時過ぎ。
「こりゃ、余裕だな」
僕は大いに安心して、サドルに再び腰掛けました。

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(展望台手前にいたワニ。遠くからみたら可愛いです)

行きはよいよい帰りは怖い。
僕はその言葉を漕ぎだしてからすぐに思い出します。

 ――風が。風が強い。  

自転車乗りであれば、猛烈に恨んだことがある相手。それは、です。
風は非常にやっかい。

追い風ってほとんど分からないんですよね。それこそ「自転車気持ちいいー!!」とか、調子乗っている時は大抵追い風です。そして、気付くのが帰り道なんだよ。

向かい風の力って凄いんです。
全然、体が進まないの。

ずしっと前から見えない手で押し返されているような感覚を覚えます。だからこそ、風の影響を抑えるためにロードバイクはドロップハンドル(牛の角のような形のハンドル)にして、体勢を低く保てるようにしているんですけどね。

更に悪いことに、帰り道はまっすぐな道じゃないので、1kmほど行きより長い。
 
……。
…………やるしかないんだ。

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(漕ぎながらパシャリ)

結果?

もちろん、間に合いましたよ。
最後の15分くらいは、北海道を自転車で走っている時を思い出しました。あぁ、自転車ってこんな感じだったなぁ、って。

4時50分にビジターセンターに戻ってきた僕はある種の達成感と程よい疲労を持って、夕焼けに染まるエバーグレーズ国立公園を後にするのでした。

ただ、最高に気持ちよかった。それは間違いありません。

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さて、やっと書き上がったので、そろそろビーチに向かおうと思います。食べるところを探さないといけませんね。
 
レストランがまだやっていることを祈っています。アメリカ時間では大晦日の記事これで終わりです。今年は色々ありましたが、何とか無事に新年を迎えることが出来そうです。

読んで下さった皆様、色々とありがとうございました。
あと数日このエッセイは続きますが、来年もまたよろしくお願いします。

それでは、Happy New Year!!

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