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奏多
2019年4月5日 16:46
現在連載中の小説「忘れ者」です! 少年は遊ぼうと誘ってくる。 見つけたいのに、見失ってしまう。 信じたいのに、疑ってしまう。 思い出したいのに、忘れてしまう。 少年は遊びに誘う。 「あなたのいらないものと、僕の持っているあなたの欲しいもの。奪い合いをしますか?」 現代ファンタジーミステリーです。【序章】序章1 藍子と恵美序章2 藍子と青年序章3 宣誓【宝探し】宝探し-1 プレイ
2019年4月4日 17:46
「ほんっと苛々する」 恵美は舌打ちと一緒に吐き出した。 その面倒な対象に自分が入っていないことと、入っていたとしても傷つかないであろう自分が想像出来て、溜め息の一つもしたくなってしまった。 もちろんそんなものを吐き出しでもすればこの関係は切り捨てられる事も重々承知だった。「あー、まあ、そうだよねー。男って本当に面倒だよねー」 言葉に感情を込めようとしても、秋風に乗せられた声はさら
2019年4月4日 17:53
恵美と別れた電車の中は、私の一番好きな空間だった。 どんなに能面のような表情をしていても、誰も何も言わない。 窓の外を眺めながら、今日という日が終わっていくのを見送っていた。 私は今日を見送り、今日は私を見守る。相対図が出来上がっているように思えた。 こんなくだらない事を考えられるのも、今日を何事も無くやり過ごせたからだろう。 面倒な人間関係も、鬱陶しいくらいの教室の暗黙の
2019年4月4日 17:54
私の降りる駅は男性と青年が揉めていた駅の次の駅だった。 駅のホームは夕方だからか混んでいて、エスカレーターを上る時もスカートの裾を気にしたり、改札を通る人混みの中も下腹部を少し気にして歩いていた。 くたくたになった私は、駅から吐き出されていった。 駅を出ると、いつも通っている駅前がどこか都会的な場所にも田舎のような場所にも見えた。 栄えていると思わせるような高いビルもあるが、村や
2019年4月5日 16:15
目を開くとビル群の中にいた。 肌を刺すような灼熱の太陽と、うだるような暑さが急に襲ってきた。 先ほどまで少年といた場所の方が嘘だったかのように、現実と幻の間に立っている気分だ。「ここは、どこ……?」 周りを見渡すと、左右には人しかいなかった。 静かさや情緒の存在しない、喧騒がごった返す都会の下。忙しそうに携帯で連絡を取り合っているサラリーマンや、待ち合わせをしている男女が目に
2019年4月5日 16:16
宝探し駅は、思いのほか広々としていた。駅前の地図を眺めてみると、この辺りの地形が理解できた。「宝探し駅から別の駅へは通じていないのか。出発も到着も宝探し駅で路線と言うよりもレールのようなものなのだろうか。と言う事は、線路で囲まれた世界……、という事で間違いないだろう。後は、駅から徒歩二分の宝探しデパートか。まずは行ってみないとわからない……、といったところだろうか。ここにいても時間だけが浪
2019年4月5日 16:22
『ぴんぽんぱんぽーん。敗北者、イチ名。タイムリミット、十時間。タイムリミット、十時間』 スマホから告げられた音声がやたら鬱陶しい。「なんなのよ、この……!」 スマホを地面に叩きつけたくなった。右手に持ったスマホを振りかぶったところで動きを止めた。 ダメだ……。 スマホを握りしめて胸に抱える。 深呼吸を一つした。 深く息を吐くと、ちょっとだけ気が楽になったような感じがした
宝探し-4 プレイヤー智巳 「??」「あれ……? ……………………え?」宝探し-5 プレイヤー藍子 再会 午後二時を回った タイムリミットまで七時間を切っていた。 けれど、これといって進展らしい進展は無かった。 いや、あったのかもしれないけど、勝利者というものにはなれていない。 一つありがたいことがあるとすれば、このお店ではお金を払わずに食事を取る事が出来る事だろう。
2019年4月5日 16:23
「へぇ……。なるほどなるほど」 駅近くの宝探しデパートから、駅とは反対方向への道を歩いていた。 一つ知れば一つ面白さが見えてくる。駅前の電光掲示板も、スマートフォンに内蔵されているアプリも、この取扱い説明書も俺の興味をそそるものばかりだ。 アプリを開きながら歩いていると、赤い矢印は自分の進行方向へと動いていく。 その周囲には青い矢印が三つある。 周囲と言っても結構な距離がある事
2019年4月5日 16:24
安心と驚きで心がない交ぜになった。 目の前に懐かしいとさえ感じる藍子がいる。まだ、藍子と別れた時刻から半日しか経っていないのに、永遠に近い時間を一人で彷徨っていたかのような不安感で満ちていたからだ。 藍子はいつも通り学校で決められた長さのスカートに、薄く施された化粧をしている。それが安心へと繋がった。 私との再会に藍子はただただ驚いていた。驚くのも無理はない。私も同じように驚いていた
2019年4月5日 16:25
不穏な空気しか流れていない。 息を吸うのも息苦しいような気さえしてくる。 恵美は矢印の男性を見るなり、平手で殴ったからだ。 一瞬にして修羅場と化したこの場に、私はとても居心地が悪かった。いや、これは私ではなくて他の誰かでも居心地は悪くなるだろう。「えーっと、彼は……?」「彼じゃない!」 恵美は言葉を遮った。彼は微笑を浮かべて見ている。その態度も気に入らないのか、恵美は更に
2019年4月5日 16:26
取扱い説明書もアプリも何度も読んだ。 把握したルールに基づいて試してもみた。 線路の外側にも出てみたし、道行く人に触れて宣言もしてみた。 どちらも行うと同時に持っていた花が散っていった。 どうやら行動が正解とは違っているとスマホが警報音を鳴らしてくるようだ。 この警報音にすれ違う人は誰も無関心であるのが、この世界が現実の世界とは隔絶されている世界だとわかる。 線路外に出ら
2019年4月5日 16:27
残り一時間というところでこのゲームに参加しているであろう、プレイヤーが揃った。 コンビニでは話しにくいため、場所をファストフード店に移した。「さってと、五人のプレイヤーが揃ったところで整理しようか」 和志君が指揮を取り話し始めた。「俺と弘樹は同じ学校の友達。んで、藍子ちゃんと恵美も友達だよな。んで、智巳は……、さっき言った通りの……、アレだ」「アレって何よ! さっさと認めなさ
2019年4月7日 04:23
暖かな風が肌に触れる。 さっきまでいた灼熱の日差しはどこにもなく、風は凪いでいた。 目の前には学校があった。私は学校の校門に立っていた。「あれ……? みんな……?」 周りには誰もいない。一瞬、目を瞑っただけなのに、何もかもが消え去った。現実離れする現象に少しずつ慣れてきている自分が少し怖かった。 学校の時計の上に『かくれんぼ』と垂れ幕があった。「あっ!」 慌ててスマ