KPIとは「教育」そのものである
昨今、IT業界だけに限らず様々な業態の中で用いられているKPIというものについて考えを馳せてみる。
直近、このトピックスについて非常に痺れる結論に至ったので整理する。
ここ数年過ごしていて、その中でも特筆して個人的には衝撃だった。
組織の目標達成の度合いを定義する補助となる計量基準群である[1]。KPI はビジネスインテリジェンスにおいて、現在のビジネスの状態を示すものとして使われ、今後の対応策でどうなるかを予測するのに使われる。(Wikipedia)
と一般的には捕らえられており、IT業界のサービス開発においては「そのサービスの重要なポイントをウォッチする」のに用いられることが多い。
以下はIT業界におけるサービス開発の場でのKPIについて述べる。
1.一般的に定義されているKPIの認識
2.KPIの変遷
3.本来のKPIの目的
4.Education Lineというもの
5.改めてKPIとは
1.一般的に定義されているKPIの認識
様々な場で用いられるKPIという定義だが、ここ最近非常に違和感を覚えてきた。
一番大きな違和感は「あくまで観測でしかない」こと。
特定のサービスにおいて「KPIは◯◯です」というのはそこら中のチームで語られていると思うが、多くの場合が「その数値を計測したところで、結果の把握にしかならない」ということ。
例えば「ユーザーあたり被課金額」という数値があるとする。
このnoteでも同じで「1人のユーザーが課金"してもらう"額」という数値はもちろん存在していて、非常に重要な数値であると思う。
それをデイリーでウォッチしていたところで
- うん、順調や
- あれ、なんか横ばいだな
- ん...、下降気味や
こんなフィードバックしか得られない。
KPIというのは「その数値を上げればサービスが上向く」というものである。
上の数値はKPIではなく「KPIを改善した結果ついてくる数字」だと思う。
そういう意味で「結果の把握にしかならない」という表現を使った。
2.KPIの変遷
KPIという言葉がいつ頃から使われ始めたか記憶はないが、色々な変遷を辿ってきた気はする。
2011年ごろ:UU、DAU、MAUなど
2013年ごろ:滞在時間、軌道回数など
2016年ごろ:1人あたり◯◯、1起動あたり◯◯
2018年ごろ:ユーザーセグメントあたり◯◯
サービスのユーザーを「いい感じな粒度」でセグメント分けをする。
大体2~4セグメントが良さそう。
と、メルカリでは言われているそうです。
これはまさにその通りで、一般的にウォッチされている全ての数値(KPIと言われているもの)はノイズまみれであるということ。
DAU、特定のイベント回数、特定の課金額、コホート......
例えば「今日インストールしたユーザー」と「1年前から利用しているユーザー」が分母に一緒になっている時点で既に数値としての信頼性は非常に低くなる。統計のセオリーだが、サンプルの前提条件は揃っていればいるほど良い。
途中で一旦切り上げてしまうが、KPIというものの考えかたは非常に理にかなった形で進化してきている。
3.本来のKPIの目的
ここでKPIの目的について整理する。
KPIって何のために存在するかというと「サービスを伸ばす道標」以外のなにものでもない。
概況を把握するものでもなければ、結果を知るためのものでもないし、使われてるか度を計るものでもない。そして、ここまでは世の中でも一部ではちゃんと理解されている。
そこから一歩先に思いを馳せてみたのが今回。
サービスを伸ばすというのはどういうことか。
それは「ユーザーを成長させる」という結論。
サービスを伸ばすドライバーになるのは機能でも、マーケティングでもなくユーザーの成長である。(マーケティングはあくまで加速材である)
よくヘビーユーザーという表現が使われる。
「いっぱいサービスを利用してくれているユーザー」と誤認されがちだが実際はやや異なる。
ヘビーユーザーとは「最大限成長したユーザー」のこと。
そして、ユーザーを成長させるというのは、言い換えるならば
「全てのユーザーを、最大限成長したユーザーに成長させること」である。
4.Education Lineというもの
コミュニティによって呼び方は違うと思うが、Education Lineと呼んでいるものがある。
初めて訪れたユーザー(初心者)がどういう軌跡を辿って「最大限成長したユーザーになるのか」というものである。
ユーザーは小さな成功体験を重ねながら成長していく。
そして、そのいくつも連なった成功体験の連鎖の途中でモチベーションを失い離脱していく。
それを全て乗り越えたユーザーだけが「最大限成長したユーザー」としてヘビーユーザー認定される。
今回の思考整理の全てはこのEducation Lineにある。
ここでTwitterを例に出してみる
Twitterの初心者Aは当たり前に「インストール直後で140文字のルールも知らず、呆然としているユーザー」である。
一方のヘビーユーザー(最大限成長したユーザー)Bは「1日10回は起動し、頻繁にツイートを行い、フォロー対象のツイートにコメントし、自分のツイートもRTされがちなユーザー」とする。
この2者の間には非常に多くの成長過程が存在する。
しかし忘れてはいけないのはBも最初はAであったということ。
このBの成長の過程を全てのユーザーに適応できたら、理論上は全てのユーザーがBになってくれるということ。
推測ではあるが、Bが成長してきた形跡を考えてみる。
(自分のサービスなら推測は絶対NGで狙わないといけない)
1.インストールをするが何していいか分からない
2.公式アカウントのフォローを促される(フォローというものを知る)
3.タイムラインに2のツイートが流れてくる(ツイートというものを知る)
4.ツイートにコメントが付いているのを見る(コメントできることを知る)
------やや飛躍する
5.友達がTwitterをやっているのを知る(リアルの人の存在を知る)
6.友達をフォローする(初めて能動的にフォローを行う)
7.友達のツイートが流れてくる(3とは比べ物にならないほど価値がある)
8.友達をさらに探す(6で経験しているのでさらに加速する)
9.友達のツイートにいいねする(いいねを行うことを知る)
10.友達のツイートにコメントする(初めて能動的にコメントを行う)
11.友達のコメントにコメントが返ってくる(コミュニケーションを経験する)
12.自分でもツイートをしてみる(初めて能動的にツイートを行う)
13.どんどんツイートする(12で経験しているのでさらに加速する)
14.自分のツイートにコメントが付く(初めてコメントを受け取る側に回る)
15.どんどんコメントが付く(14の体験がさらに加速する)
16.ここまで来たら後はもうお好きに...
つらつらと書いたが、Twitterのユーザーが成長する一つのイメージが上記である。そしてこの1~15がEducation Lineである。
ユーザーが成長する軌跡を成功体験ごとに分割した一つの線を指す。
まず何よりも大事なのはこのEducation Lineを作ること。
そして、次に死ぬほど大事なのは「どの成功体験までユーザーを導けば離脱が劇的に減るのか」というポイントの見極めである。
各ポイントをEducation Pointと便宜上呼ぶことにする。
上のTwitterのEducation Lineで太文字になっている6番。
数値を見れるわけではないので肌感ではあるが、このEducation Pointが最初の大きな離脱抑止ポイントだと感じる。
SNSにおいて「友達の発見&ソーシャルグラフへの追加」というのは非常に大きい。そのサービスを使う理由としてとても強いものであるから。
仮にこの6番のEducation Pointが離脱率を劇的に下げるポイントだとする。
ここまで見つけれればゴールは近い。
全てのユーザーを何としても6番のEducationPointまで導けば良い。
それだけである。
5.改めてKPIとは
ここで本来のKPIの話に立ち返る。
KPIとは何か。
KPIとは
「各Education Pointへの到達率」である。
そして、その中でも重要なEducation Pointへの到達率がKPIの中でも最も重要である。
ユーザーが
「Education Point 1からEducation Point 2に到達できているか」
「Education Point 5からEducation Point 6に到達できているか」
これらを計測するのがKPIである。
もし一箇所でも到達率の悪いポイント間があれば、そこがサービス成長=ユーザー成長の重大な落とし穴になっているということ。
最後にまとめると。
やるべきことは非常にシンプルである。
1.自分のサービスのEducation Lineを設計する
2.各Education Pointごとに到達率を計測する
3.伸び悩んでいるポイント間があればそこの原因を探る
4.機能やマーケティングで改善施策を検討する
5.全てのEducation Line到達率が向上する
紐解いてみるとこれが全てであるように感じる。
そして、最後にシレッと書き残すと。
このロジックはうWebサービスにとどまらないのが面白い。
喫茶店だろうと、薬局であろうと、組織づくりであろうと、恋愛であろうと、部活動であろうと、世の中の全てに当てはまるのではないかと感じる。
自分の喫茶店に初めて来たお客さんが常連になる過程にもEducation Lineは存在するし、初めて会った女性と付き合うまで、お互いの関係値にもEducation Lineは存在する。
それに気づいた時に凄く痺れた先月末。
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