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魔人バラクロア

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火の山に住むという魔人のもとに生贄に送り出された少女リテル。魔人との出会いはやがて意外な騒動へと発展していって……。 2013年頃に書いたファンタジー小説です。
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記事一覧

魔人バラクロア その1

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 これは火の山に住むという魔人バラクロアのお話です。
 まあ、火の山と言ってもそこは休火山でしかありませんし、実際にそこに住んでいるそのものにしてみれば、自分のことを魔人だと思った事もなければ、自ら何かしら名前のようなものを名乗ったことすらなかったのですけど。
 ともかくも、それはいつの頃からか、山の洞穴の中に住んでいました。程良い地熱と漆黒の暗闇がなかなかに居心地の良い場所でしたが、いつか

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魔人バラクロア その2

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「勝手なものだよな。元々は生け贄として寄越すつもりだったのに」
 魔人が村に姿をみせてからこちら、リテルと魔人は例の水面の上に像を写す水鏡の術をつかって、それとなく村がどういう様子なのかを観察していたのでした。魔人がそう漏らしたように、元々生け贄まで送っておきながら、今更蜂の巣をつついたように慌てふためくというのは、身勝手とそしられても仕方のない事だったのかもしれません。リテルとしては同じ村

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魔人バラクロア その3

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 さて、魔人とリテルはその後速やかに山の洞穴へと舞い戻りました。魔人にはとりあえず当面片付けるべき、少々面倒な仕事があったのです。
 そう、火の山へと意気揚々と向かっていった、王国軍の兵士達の相手でした。
 魔人にしてみればこれは難しい話でも何でもなくて、元よりおのが住処を土足で踏み荒らそうという無粋の輩ですから、何の遠慮があろうか、といったところでした。とは言えリテルの手前、あまりむごたら

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魔人バラクロア その4

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 さて、兵士達がそうやって退却していくさまは、もちろん洞穴にいる魔人とリテルも、例の水鏡で見て把握していることでした。洞穴の外では炎が盛大に燃えさかっておりましたが、近づく者がそれ以上いなくなったという意味では静かになったといえるわけで、リテルと魔人は恐る恐る、洞穴にやってきた――転げ落ちてきた椿入者の様子を見に行くことにしました。
 入り口の斜面を、てっぺんから底まで一気に転げ落ちた格好に

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魔人バラクロア その5

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 果たして、そこに飛来した謎の光の正体は何なのか――魔人もリテルも、水鏡の向こうの景色をただじっと息を詰めたまま見守るより他にありませんでした。
 老人はというと、ふんと鼻で笑うと――笑った声が聞こえたわけではありませんが水鏡の像で見る限りはそうしたように見えました――ひとつ大きくかけ声を上げて、ひらりと跳躍したのでした。その場でぴょんと飛び上がったかと思うと、ふわりと空に舞い上がって……そ

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魔人バラクロア その6

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 さて……。
 火の山を後にしたルッソとリテルの二人でしたが、魔王の軍勢に闇雲に立ち向かっていくというわけにもいきません。賢者ルッソは軍勢を追跡しつつ、王国軍の対応にも道中目を配らせておりました。王国軍はやはりホーヴェン王子が人質になっていることから、迂闊に手出しをするわけにもいかず、もっぱら敵軍の進路上にある村々の住人達の避難を指示して回る程度で、あとは遠巻きに敵の動きを見ているより他にな

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魔人バラクロア その7

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 やがてリテルは村に戻りました。
 気がつけば王国を揺るがす大騒動の、まさに渦中にあったリテルです。魔人のこと、バラクロアのこと、火の山での一連の顛末……場合によっては事の責任を問われ、あれやこれやと厳しい追及を受けても仕方のないところでしたが、不思議と誰かに何かを問われる事もありませんでしたし、そういったしかるべき席に呼び出されるという事もありませんでした。一つには、あのルッソが全てを自分

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