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【推し本】人類と気候の10万年史/宇宙と気候の意外な関係(と人類活動の影響)

もうここ何年も、毎年のように「40度を超える酷暑」、「経験したことのないような超大型台風」、「通常ひと月分の降雨量が一晩で」、「気象庁が観測を始めて以来のXX」、「氷河が大きく減退し」といった異常気象の報道を目にし、もはや異常が常態という様相。実際、命を脅かすような暑さも豪雨も、リアルに体感しますよね。
これ以上温暖化が進んだら、深刻な干ばつや環境破壊、未知のウイルスとのたたかいや、食料やエネルギーをめぐる紛争なども想定され、叡智を集めての脱炭素社会化はまったなしです。

ところで、これまで地球はどのような気候変化をたどってきているのでしょうか。

そこには、宇宙の中での地球の動きとの壮大な関係がありました。本国セルビアでは最高紙幣の顔にもなっているという地球物理学のミランコビッチ博士の「ミランコビッチ理論」は、天文学と気候を関連づけた意外性からとても興味深いです。
太陽の周りをまわる地球の公転軌道は、まん丸に近い円の時と輪ゴムを伸ばしたように楕円になる時を10万年の周期(!)で繰り返しており、それにより太陽と地球の距離が変わるため、氷期と温暖期を繰り返すことをミランコビッチ理論は示しました。
さらに、地球の自転軸は少し傾いていますが、これも2万3千年の周期で傾いたコマが回るように自転軸が入れ替わってもとに戻るそうです。それにより、寒い冬ー寒い夏ー暖冬ー暑い夏、と気候に影響します。
とはいえ、10万年の長めの周期と、2万3千年の短めの周期、って、なんとも悠久のサイクル!

そのミランコビッチ理論の実証に使われたのが、福井県の水月湖の湖底に蓄積された年縞堆積物です。なんと地震や嵐や川の氾濫や生息物に湖底を荒らされることがなかったという、地球上でも非常にまれな奇跡的な条件により、淡々と静かに堆積物を蓄積した量なんと15万年分!。四季があるおかげで、季節ごとのプランクトンの色が変わり、また春には大陸からの黄砂や花粉が堆積し、木の年輪のように縞状に一層で一年とわかるのです。
その水月湖のボーリングと、縞状の一層一層から何万年前のものかを推定する技術など、研究者の地道で苦労が絶えない調査をしてきた著者の話もプロジェクトX的で胸アツなので是非読んでいただきたい。世界標準となる「時間のものさし」を作った功績は広く知られてほしいです。
その水月湖の堆積物から、当時の周辺の風景が推測できます。氷期にはモミ、トウヒ、シラカバなどの針葉樹、温暖期にはスギが増え、それはまさしくミランコビッチ理論の周期と一致し、天文学的な変化が植生に影響していたとわかります。さらには、何万年といった単位で語られる古気候を、人の一生の時間感覚で見ることができるのが水月湖の年縞です。
ひー、もう、すごくないですか?

さて過去が示したサイクルは、未来を予測するものなのでしょうか。
実はミランコビッチ理論によると、サイクルとしてはすでに氷期に入っていておかしくないのに、地球はその兆しを見せていません。人類の活動が生んだ温室効果ガスが氷期への転移を遅らせているのではと言われています。
それも産業革命以降の工業化の影響、といった比較的最近の出来事ではなく、およそ5000年~8000年前から、温室効果ガスであるCO2とメタンは増え続けているそうです。これは人類の農耕開始(メタンを増やす)と森林破壊(CO2を増やす)の影響だというのです。
人類の所業ってそんなに原始的な時代から、地球に影響を与えてしまっているのでしょうか。。

本書で、二重振り子の例が出てきます。普通の振り子は左右に規則正しくスイングするだけで、ふるまいが簡単に将来予測できるのに対し、振り子の先にもう一つ振り子を付けた二重振り子になると、そのふるまいは一気にカオスとなり将来予測ができないのです。
今後、何らかの引き金で気候の相転移が起こるのか、それは誰にもわかりません。それでも目下の温暖化対策は本当に喫緊です。


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