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【英語推し本】Extremely Loud & Incredibly Close(邦題ものすごくうるさくて、ありえないほど近い)

“An uplifting myth born of the sorrows of 9/11(Boston Sunday Globe)”と評されている通り、世界中が衝撃を受けたあの9.11の出来事から生まれた、心揺さぶる傑作です。著者はJonathan Safran Foer。トムハンクスとサンドラブロック出演の映画もおすすめです。

もう、なんとも言えないんです、この物語は。敢えて詳しいあらすじは出しませんが、最悪の出来事から遺された人はどう立ち直れるのか、いや立ち直るのもっともっと前に、起こった出来事をどう理解して消化できるのか、いや消化すらできないこととどう共存して生き続けていけるのか、そのヒリヒリした切実さを少年の視点から描き、滂沱の涙なくしては読めません。少年の語りとして書かれているため、英語もそれほど難しくはありません。

少年オスカーは、”あの日”のことをthe worst dayと言います。そのthe worst dayの前日の夜、いつものように父に寝かしつけられながらいろいろな話をします。
少し長いですが引用します。この中にこの本を通じてのテーマも隠されています。

When Dad was tucking me in that night, the night before the worst day, I asked if the world was a flat plate supported on the back of a giant tortoise. "Excuse me?" "It’s just that why does the Earth stay in place instead of falling through the universe?"  (略)He said, "The Earth does fall through the universe. You know that, buddy. It’s constantly falling towards the sun. That’s what it means to orbit." So I said, "Obviously, but why is there gravity?" He said, "What do you mean why is there gravity?" "What’s the reason?" "Who said there had to be a reason?" "No one did, exactly." "My question was rhetorical." "What’s that mean?" "It means I wasn’t asking it for an answer, but to make a point." "What point?" "That there doesn’t have to be a reason." "But if there isn't a reason, then why does the universe exist at all?" (略)He said, "We exist because we exist." "What the?" "We could imagine all sorts of universes unlike this one, but this is the one that happened."
あの夜、あの最悪の日の前の夜、パパに寝かしつけられながら、僕は、世界は大きな亀の背中に支えられている平たい板なの?と聞いた。「なんだって?」「それで地球は宇宙に落ちていかずに位置をキープしていられるの?」(略)パパは言った。「地球は宇宙に落ちているんだ。そんなこと知ってるだろ?地球は太陽に向かって落ちている。それが周回するということさ。」僕は言った。「そうだね。でもどうして重力はあるの?」パパは言った。「どうして重力があるのってのはどういうこと?」「その理由さ。」「誰が理由がないといけないって言ったんだ?」「別に誰も。」「ちょっと修辞学的だったかな。」「どういうこと?」「つまり、答えを聞いているんじゃない。要点をはっきりさせたのさ。」「要点?」「理由なんてなくてもいいってこと。」「でも理由がないなら、どうして宇宙があるの?」(略)パパは言った。「僕たちは存在しているから、存在しているってことさ。」「はあ?」「今ある宇宙とは別の形の宇宙も考えられるだろうけど、たまたまこういう宇宙になったってこと。」 (拙訳)

9.11から1年後。たまたま父のクローゼットで見つけた鍵の謎を解くために、少年が鍵の持ち主を探してNY中を巡る中で出逢う人々もまた、痛みや孤独を抱えています。(この過程で、少年はADHD的であることもわかってきます。そして最初は謎めいていた母の存在が、最後にはどーんと大きかったこともわかります。)
痛みや孤独を抱えた者同士の魂が呼応しあい、それぞれの一瞬の出逢いが一生の中でのターニングポイントになるかもしれないと、一筋の希望を感じさせもします。

どうやっても巻き戻せない時間、それでもテープを巻き戻すように巻き戻せたら。あの日起こったことがなしにできたら。
仮定法過去完了のオンパレードの最終章は、そんな少年のファンタジーなのです。

He would've walked backward to the subway. 
Dad would've gone backward through the turnstile, then swiped his Metrocard backward, then walked home backward as he read the New York Times from right to left.
(略)
He would've gotten into the bed with me.
He would have told me the srory.
We would have been safe.
パパは地下鉄まで逆さに歩いていき、
改札を逆さに出て、メトロカードを逆さにスワイプして、New York Timesを右から左に読みながら家に逆さに帰って、
(略)
(あの最悪の日の前日の夜に)僕とベッドに入って、
お話をしてくれて、
そして僕たちは安全なはずだ。 (拙訳)

ところで、この本は少年が集めていた写真なども効果的に挿入されていて、その中に、9.11で飛行機が突入した世界貿易センタービルから人が堕ちていく写真があります。
日本時間では夜の出来事、世界中が生放送で見た惨劇でしたが、NYだけでなくペンタゴンにも飛行機が突入するなど、信じられない光景を両親と固唾を飲んで見ていたのを覚えています。姉がたまたま当時ワシントンに住んでいたので、母が電話で姉に、家から出たらあかんよ!、などいっていましたがそんなことで大丈夫なのか、何がこれから起こるのかわからない不安を抱きました。
人が堕ちていく写真もいろいろな報道や新聞等で出ていた記憶があります。
その写真に衝撃を受けた一人に、ポーランド人でノーベル文学賞を受賞した詩人のヴィスワヴァ・シンボルスカがいます。
詩集「瞬間」では、「九月十一日の写真」という題の詩があります。

燃えさかる高層ビルから飛び降りた
一人、二人、さらに何人も
上からも、下からも。

写真はあの人たちを生きたまま止め
宙づりにした
地面の上で、地面に向かって。
(略)
あの人たちのために私ができるのはふたつのことだけ
この飛行を描き
最後の一行を書き加えないこと。

ポーランドで初版された詩集の表紙の絵は、つばめが飛び交っているような絵なのですが、そのうちの一羽はビルから堕ちていく人を想起させ、堕ちずに鳥になって空を飛んでほしいという祈りにつながっているようです。

ところで、冒頭に引用した中に、「地球は太陽に向かって落ちている。それが周回するということさ」というくだりがあり、うーんと、どういうこと??英語の解釈間違ってる??とモヤモヤしていました。
先日たまたま江本伸悟さんという、東大で渦の研究をされて、今は私塾・松葉舎を主宰されている方の話を聞く機会があり、まさにドンピシャな説明が出てきてスッキリ!です。月はほっておくと本当は慣性の法則で点線の方向に進むところ、地球の重力に引っ張られて落ちている(赤線)、ということを絶え間なく繰り返しているので地球の周りをまわっている。これは月と地球の場合ですが、地球と太陽も同じですね。あースッキリ!!

月は常に赤線の分だけ地球に落ちてきている


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