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[推し本]東北モノローグ(いとうせいこう)/ポリフォニーの聞き記録の迫力

先月ご縁あって瀬尾夏美さんと宮城の被災地を訪れることがあったので、ちょうど刊行されたばかりの東北モノローグも予習的に読みました。

「東北モノローグ」では聞き書きに徹していて、インタビュアーであるいとうせいこうさんの声は一切消し、人々の語りを前面に出しているところはアレクシェーヴィチ的です。モノローグといってもほっておいてひとりでに出てくる声ではなく、聞かれなければ出てこない声の方が多いでしょう。それらを価値観や解釈を交えず記録することの意味は大きいと思います。そして語り手の数が多いほど、静かに迫力を増していくのがポリフォニーです。

震災当時まだ小さな子供だった大学生、農家のおじいさん、地域の防災アドバイザーなどいろいろな世代の声が記録されています。
私が被災地で実際にお会いした方からも聞いたのですが、震災後、周りの大人や教師が大変過ぎるのを見て子ども達は気持ちを出すことでできませんでした。子どもらしい当然のわがままも出せず、思春期の複雑な時期も十分にケアされていなかったでしょう。今になって、当時の子どもたちが気持ちを出す場が必要とのことで、場づくりや相談相手になる活動をされている方でした。これはその後の自然災害や、最近では2024年元旦に起こった能登の震災でもケアしてほしい視点だと思います。

あの3.11の夜、なんの情報も入ってこない中暗闇に向かって励ましの声をかけ続けたNHKのアナウンサーがいました。阪神大震災の経験から、

こういう時だからこそ周りの人と声を掛け合って、この冷たくて暗い夜を乗り切りましょう。

と呼びかけ続け、少しでも明るくなれば暖かくもなり、救助も動き出すと

日の出まで何時間何分です。
明けない夜はないですよ、あと少しですよ。

と繰り返したそうです。
もしかしたら、自分の声を聞きながら亡くなった人がいるかもしれない、この世の最後の声になった方がいるかもしれない、という思いを今も抱いているというのもずーんときます。

この本でも取り上げられている、小野和子さんという半世紀以上東北で民話の語りを集めている方が先駆者的にいて、瀬尾夏美さんとも繋がっています。こうして、関係なさそうなことが次々つながっていき、どうしたってこの小野和子さんという源流を知らないといけないとなりました。

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