見出し画像

小説を書きたくて(1)作家の収入

 いらしてくださって、ありがとうございます。

 小説の書き方指南本との出逢いは、小説講座の講師の著作からです。
 以来、同種の書籍を見かけては購入し、何冊かは手放しているものの、いまだ手もとにニ十冊余もございます。

 何冊も読むより一行でも書くべき、とわかってはいるのですけれど。書かない言い訳がわりに、読んで勉強しているつもり、なのかもしれませぬ。
 
 先日来、それら指南本をまとめて読み返しておりまして、あらためて著者ごとの特色に気づき、以前はわからなかった点が理解できるようになっていたりして、読み物としても楽しんでおります。

 ところで、noteには上質のエッセイや小説があふれていて、それら書き手の方々は、すでに書くための技術をものにしておられます。
 一方でこれから小説を書いてみたい方、自分で書くことなど思いもよらないという方もおいでだと思われます。

 そうした方々に、指南本にはこんなことが書かれていますよとご紹介しつつ、私自身が小説講座や合評会などで学んだこともお伝えすることで、みなさまと「書くモチベーション」を上げていけたら。そんな思いでこれから数回にわたり、『小説を書きたくて』のタイトルで記事を書いてまいります。
 よろしければゆるりとおつきあいくださいませ。


 ★★★★★
 

 小説をなぜ書くのか。
 この問いに対しては、まず以下の一節をご紹介します。 

「べつに私が書かなくても、すでに小説はあるわけで、その上で、いったい私は何を書けばいいのかという疑問もわいていくる」

保坂和志『書きあぐねている人のための小説入門』草思社より引用

 
 一方で、「小説を書きたい人」についての言及がこちら。

 小説を「書きたい」と思うのは、何らかの「過剰」または「欠如」を抱えているからにほかなりません。
 今までとはちょっと違う何かになりたい。
 心に収めきれない思いがある。
 何かを求めてやまない。
 そんなやむにやまれぬ思いがあるときに、人は小説を書きたいと思うのではないでしょうか。「過剰」な何か、あるいは「欠如」した何かがなければ、本当は小説など無理に書かなくてもいいのです。

根本昌夫『伝える、揺さぶる基本メソッド【実践】小説教室』河出書房新社より引用

 ちなみに保坂和志氏は芥川賞作家さま、根本昌夫氏は「海燕」「野生時代」の元編集長で、各所で作家育成の指導をしておられ、2018年には教え子のお二人(石井遊佳氏、若竹千佐子氏)が芥川賞を同時受賞されています。

 文章を書くという行為は、日記も含め、心の裡にあるものを吐き出して整理するという効果があると申します。
 それは根本氏が仰せのように、書くことで、己のなかの過剰や欠如と向き合い、自身の心が慰められ、落ち着くからなのかもしれません。

 ただ、文章をよそ様に読んでいただくならば、貴重な時間をいただくわけですから、「それなりの文章」でなければ失礼にもなりましょう。
 ただただ呪詛を吐き散らすだけでは、読んだ側は時間だけでなく、心まで削られてしまいますから……。

 書くことの効用はあるとして、読み物として価する文章を書くためには、多くの先行作に触れること。そして、書く技術を磨くこと。磨くためには、小説講座に通ったり、指南本を読んでみること。さらには『信頼できる読み手』に作品を読んでもらい、忌憚ない意見を聞かせてもらうこと。PV稼ぎの相互フォロー先からの当たり障りない感想では、気づけないものがあるはずで。

 ……とはいえ小説を書くうえは、プロ作家になり夢の印税生活をしたいという本音、抱いておられるみなさまも少なからずおいででしょう。
 指南本には、プロ作家の収入のリアルについても書かれております。

 今、日本に小説家は何人くらいいるのか。仮に五百人として、その八割は年収五〇〇万円以下くらい、なかには二〇〇万円以下の人もいます。例えば、皆さんが今、角川書店から四六版ハードカバーの長編小説を書き下ろしで出すとします。新人ですから執筆には半年くらいはかかるでしょう。初版部数は四〇〇〇部、定価が一七〇〇円、印税は一〇パーセントとして、皆さんの収入は六八万円になります。半年かけて六八万、コンビニのアルバイトよりも低い金額です。

大沢在昌『売れる作家の全技術』角川書店より引用

 『売れる作家の全技術』は初出2011年~ですから、現在はもしかしたらアルバイトのほうが稼げる(!)計算になっているかもしれませぬ。

 永江 朗氏『作家になるには』(ぺりかん社:2004年初版)では、作家の収入には二種類、雑誌や新聞に掲載されたときの「原稿料」と、本になったときに得られる「印税」があるとしています。

 原稿料は、400字詰め原稿用紙1枚につき1,000~1,500円程度の新聞・雑誌もあれば、その10倍から20倍という新聞・雑誌もあるとのこと。
 印税とは出版社が作者に払う著作権使用料のことで、作者が亡くなっても50年間(※注:2018年に70年に延長されています)は著作権継承者に支払われます。
 本の値段の何%という契約が一般的で、6%や8%のこともあれば、12、14%ということもあり、売れれば売れるほど印税率が高くなる契約もあれば、印刷部数または売れた部数にしたがって支払われるなど、契約もさまざまだとか。(以上、『作家になるには』永江朗・ぺりかん社より)

 『作家になるには』は2004年の刊行。それから7年後に出版された『売れる作家の全技術』で大沢氏は、「1979年当時に比べて今(2011年)の出版市場は三分の一くらいに縮小、生き残る確率も三分の一、入るお金も三分の一」と書いておられ、そこからさらに十数年を経た現在たるや……。

 先日ご紹介した『オール讀物11月号』に連載中の小説『PRIZE─プライズ─』(村山由佳)では、以下のような記述があり、おそらくは現代のリアルが活写されていると思われます。

 今どき、初版三万部刷れる作家はめったにいない。二万部ですらほんの一握りに過ぎず、ほとんどは数千部からのスタートだ。この業界、筆一本で食っていける作家のほうがはるかに少ない。
(中略)
 世間では作家になりさえしたらたちまちウン千万稼げるといったような幻想がいまだに根強いようだが、デビューする新人が百人いたとして、三年後まで生き残れる作家は一人か二人。現実は非常に厳しく、しかも出版不況の深刻さは年々その度合いを増している。
(中略)
 いずれにせよ、新聞やグラビア誌や企業から声のかかる作家そのものが限られているわけで、多くの作家は文芸誌の原稿料だけでは暮らしてはいけない。依頼が毎月途切れず続く保証はない上に、ひと月に書ける枚数にはおのずと限界があるからだ。
 ようやく息がつけるのは、書き溜めたものが無事に単行本化され、新刊発売日の翌月になって<定価の十パーセント×初版部数+消費税>から源泉徴収税を差し引いた金額が銀行口座に振り込まれた時だけだ。といっても本体価格二千円の本ならば印税は一冊につき二百円、つまり初版五千部スタートであれば収入は百万円。執筆に半年かかったとして、年に二冊本が出ても二百万ぽっきりだ。後から出るかどうかもわからない文庫を加えてみたところで、とうてい割の良い仕事とは言えまい。
 おまけにボーナスはない。福利厚生もない。出版社との雇用契約も何もない。

文藝春秋『オール讀物11月号』連載小説『PRIZE─プライズ─』村山由佳より引用

 
 出版部数も、十年ほど前は5千部刷れたら万々歳、せいぜいが3千部からだと小説講座の講師が仰せでしたが、こちらもいまやどうなっていることでしょう。

 大沢在昌氏が「永久初版作家」と呼ばれ、自称もされていたことは知る人ぞ知る事実。1979年に第一回小説推理新人賞を受賞してのデビュー後、1990年までの間、28冊刊行されたすべてに重版がかからなかったゆえの呼称ですが、それでも当時の出版業界は、大沢氏に二十年もの間、原稿を依頼し続けていました。
 大沢氏の作品に光るものを見出し、それを育てる気風が当時はあったがゆえのことで、出版不況の現在は「新人賞を獲っても仕事をやめないでください」と、どの出版社の編集者さまも仰せになるのだとか。

 ことほど斯様にもしもプロ作家になれたとして、それを生業として生きていくのは至難の業──。

 それでも、まずは日々の鬱屈を吐き出して整理するために、あるいは「自分が読みたい物語」を形にするために、または「心揺さぶる物語をひとりでも多くの方へ差し出したい」と願い、筆を執り、書き続けていきたい。
 そんなみなさまへ、このシリーズ記事がすこしでもお役に立てることを願っております。
(と申しつつ、とある指南本を読み返し「私には小説書くのはやっぱり無理なのでは」と打ちのめされてもいるのでした^^;)

・・・・・

 最後までお読みくださり、ありがとうございます。

 今日の日中、当地は心地よい日差しに恵まれ、あたたかく過ごせました。これから寒さ厳しくなる折から、どうぞみなさまも貴重な日差しを有効に浴びて、心身を温めてくださいましね。

 明日もみなさまに佳き日となりますように(´ー`)ノ

  

 

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?