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小説を書きたくて(3)プロになるには

  いらしてくださって、ありがとうございます。

 手もとにある小説の書き方指南本をご紹介しつつ、小説講座や合評会で学んだことをもとに、みなさまと「書くためのモチベーション」を上げていけたら、という思いで綴る本連載『小説を書きたくて』第三回です。

 前回はプロ作家とは、について触れてみました。プロになり、自分の書いた作品でお金を稼ぐことの大変さの一端を知ることで、「書くよりも、読んであれこれ批評しているほうが気楽では」と正直、思わなくもないのですけれど。

 プロ作家になるためには、どんな手段があるのか。今回はそこにフォーカスしたいと思います。

 『作家になるには』(永江朗・ぺりかん社)によれば、作家になるステップは大きく3つある、としています。

 1・小説を書けるようになること
 2・書いた小説を発表できるようになり、デビューすること
 3・小説を書きつづけられるようになること

 同書では、ステップ1の「小説を書けるようになる」には、大学や専門学校の創作コース、カルチャースクール、同人誌などで学ぶことを挙げています。

 新人賞を受賞した方々の経歴に「某大学文学部」という文字を見るたび、やっぱりそういうところで学ばんとあかんのかなぁとつぶやいてしまいがちですけれど、そこで学ぶ利点は、文学についての幅広い知識を体系的に学びつつ、書くことに専念する時間を持てること。独学では難しいそれらを有名作家などから教えられる、という点ではたしかに有効とも思われますが、そこを卒業した全員が活躍できる作家になれるかといえばそうでもないようです。

 カルチャースクールなどの講座はより実践的で、私の通っていた講座では、毎回作品を提出し、講師の講評を受けていましたし、講座の仲間とはお互いの作品についての「正直な指摘」を出し合うことができ、とても役立ちました。
 同人誌では、仲間同士による批評がより真摯に行われるイメージで、同人以外の参加者も受け容れてくれる合評会に参加したときは、数人のプロ作家から直々のアドバイスをいただけるという貴重な体験もさせていただきました。

 このほかに小説の書き方指南本を読む、という方法もあげられます。
 貴志祐介氏は『エンタテインメントの作り方』(KADOKAWA)のまえがきのなかで、

 私自身、デビューする前は、小説の書き方に関する多くのハウツー本や文章読本の類いに目を通したものだ。目から鱗の好著もあれば、喉に骨が刺さっただけの駄本もあったが、それでも、いろいろ読んだことは確実にプラスになったと思う。

貴志祐介『エンタテインメントの作り方』KADOKAWAより引用

 と語っておられます。

 すこし話を戻しますが、『作家になるには』では、「小説が書けるようになる」ことをステップの第一に挙げています。「小説、書けるからプロを目指してるんだけど」と思われる方もおいででしょう。

 新人賞の選考もしておられた小説講座の亡き講師が、応募作について「小説にすらなっていない、エッセイもどきだったりするものが応募作全体の8割ほどを占めている」と仰せでした。

 自身の書いている文章が「小説になっているのか」、独学で書いている場合はどうやって判断したらよいのでしょう。

 ある作家さまはそれを試すために、まず短編の公募に挑戦。そこでいくつか入賞したことで「小説は書けている」と判断、長編公募に軸足を移し、そちらでも複数受賞を重ねてのデビューとなったそうです。

 ちなみに私も亡き講師に「自分が公募に挑戦できるものが書けているかどうか判断できない」と相談したことがあります。講師は「あなたなら大丈夫」と仰ってくださり、その後、某短編賞でささやかながら結果が出ているので、おそらく「小説は書けている」はず……。

 では、小説とはどんな文章なのか。
 そこには守るべきルールがいくつかあり(エッセイを応募するのは論外として)、視点と人称の問題などがあげられますが、長くなるので今回は触れられません(この連載がつづけば、こうした小説の書き方についてもご紹介していきたいと思っています)。

 話を戻します。
 小説は書ける、ではプロデビューするにはどんな道があるのか。

 指南本では、「新人賞に応募する」「スカウト」「持ち込み」「自費出版」などの方法があげられています。


 スカウトとは、たとえばこのnoteのように「WEB上または同人誌などで自作を発表」し、出版社の方から声をかけてもらうこと。

 小説投稿サイトの人気作が出版されることもめずらしくない昨今ですが、この方法に懐疑的な小説のお仲間もいらっしゃいます。
 その方曰く「作品をWEB公開すると盗作されそうでイヤ」「たいした作品でもないのに、相互フォローのイイネの応酬で人気が高いといわれる作品なんて」と。

 とくに最近は「AIが公開された文章のなかから学習を深めている」などと聞きますし、自作を安易に公開しては他者に利用されるだけ、という思いは深まるのかもしれません。

 一方で、自作をどんどんWEB公開していたあるお仲間は「利用されるかもしれないけれど、よりよいものを書いていけばいいだけ」と割り切っており、その発信頻度とクオリテイから「作品を自国の教材として使わせて欲しい」という海外(!)からのオファーがあったとのこと。

 とはいえ編集者の方々の目にとまるには、作品の人気度を上げねばならぬという高いハードルがあるのは事実。どれほどよい作品でもひっそり公開しているだけではPVは伸びないかもしれず、ある程度のブーストをかけるために各所をフォローし、いいねの応酬をくり返すという手間をかけねばならないのかもしれません。 

 
 持ち込みとは、そのまま出版社に原稿を持ち込み、あるいは郵送して編集者に読んでいただく方法ですが、当世これは基本受け付けない(自動的に新人賞への応募作としてそちらに回すことも)とされるところがほとんどだそうです。
 指南本『作家になるには』は2004年刊行ですが、この当時の実情として、持ち込みデビューをした作家は「以前から顔見知りの編集者がいた」「知り合いの編集者に文芸担当者を紹介してもらった」というケースが多いと書かれています。
 芸能人(すでに有名になっていることも有利)や、編集者からの転身でのデビューは、こうした「業界の顔見知り」がいることでスムーズにいくこともあるようです。
 
 
 自費出版とは、費用を自分で負担して出版することですが、『作家になるには』では二つの問題点をあげています。

 ひとつは、編集者のフィルターを通さないこと。
 「あなたの本を出しませんか」と自費出版を請け負う出版社の編集者と、一般の出版社の編集者とでは、作家に対しての意見の出しかたが違う。
 かたや「お客様」、かたや「自社の看板を背負って出す本」としての責任と経費とを見据えた指摘では、その違いは明白でありましょう。

 もうひとつの問題点は、自費出版ではなかなか人の目にとまらないこと。
 一日に数百冊の新刊が出る時代にあっては、自費出版の発行数では埋没してしまう。
 

「自費出版で本をつくって、プロの作家になろう」というのは、九十九里浜に落っことしたダイヤモンドの指輪を探すようなものです。本当にダイヤモンドなら、自費出版でなくてもデビューできるでしょう。

永江朗『作家になるには』ぺりかん社より引用

 
 教え子二人が同時に芥川賞を受賞した根本昌夫氏の『【実践】小説教室』(河出書房新社)においても、自費出版は「一冊でいいから本を出したい」「自分でお金を払ってでも本を出したい」という人には、とてもありがたいシステムではないか、としたうえで、「意外とトラブルが多いことも知っておいたほうがいいでしょう」、「(たとえ新聞広告などをしてくれたとしても)どうしても埋もれてしまう」、「単に書店に置き、新聞広告を出せば売れるわけではないことは、知っておいたほうがいいでしょう」とありました。


 『小説を書きたい人の本』(監修・校條剛、著・誉田龍一:成美堂出版)では、これらセルフパブリッシングの利点と欠点を次のように端的にあげています。

【セルフパブリッシングの利点】
 すぐに「本」という形をつくれる、自分の意向をすべて反映した本をつくることができる、電子出版なら安価でできる

【セルフパブリッシングの欠点】
 自分で出版費用をまかなう、大量に売るための流通にのせにくい、一般の書籍より話題になりにくい

 ちなみに、あの「浅見光彦シリーズ」で知られる内田康夫氏も自費出版からデビューしておられることを同書で知りました。

 
 スカウト、自費出版という手段は、かたや作品を堂々公開する勇気、かたや費用負担できる余裕とが必要になるものの、自分の思い通りの作品を世に問えるという点では共通しています。

 このごろはZINEという冊子もさかんに作られていて、noteで出逢った素敵な書き手さまの作品が通販されたのを機に、先日初めて購入したのですが、たいへんよい、と思いました。
 文章が素敵なのはもちろんですが、紙質、装幀、イラストなど、その書き手のセンスが遺憾なく発揮されており、掌におさまるサイズなのもまた愛らしく。
 直接の通販ということで、書き手さまのメッセージカードもついていたりして、書き手と読み手の距離の近さもまた魅力。
 流通の面ではサイズ感のこともあり、たしかに厳しい現状だと思いますが、こうした「書き手の好きを詰め込んだ作品」は価格も手ごろですし、なにより本の可能性を広げるバリエーションに富んでいます。
 販売店舗はいまは限られていますが、いずれ大きな書店さまにも自費出版コーナーの一画に「ZINEコーナー」ができるのではと個人的に思っています。

 プロデビューするための方法──。
 持ち込み可能と言われても出版社のドアを叩く勇気はない。作品をWEB公開するのは盗用が怖いし、凹むような感想をつけられるのもイヤ。自費出版するお金もない。
 プロ作家になる方法の残る一つ、そして数々の指南本も「最善・王道」とするのが「新人賞を受賞すること」です。

 ……新人賞のこと、連載第四回としてその種類と性格について書きかけていたのですが、次回、小説の書き方指南本のオススメをご紹介して本連載の最後といたします(ここまでの連載も近々非公開に戻します)。

【2023.11.28追記】
 ひっそり公開しております本記事ですが、反応くださる方もおいでになることから、いましばらくこのままにしておこうと思います。

・・・・・

 最後までお読みくださり、ありがとうございます。

 日々、さまざまな媒体の、さまざまな文章を読んでいます。
 情報記事、エッセイ、小説、つぶやき……それぞれに書き手の味があり、好もしく、ほかの文章も読んでみたいと思わせる方もおいでになれば、不用意なたった一言、一行のせいで、書き手への嫌悪感までもが生まれてしまうことも。
 前回の記事を昨晩遅くに自分で読み返してみて、「こいつ何様だ」と我ながら不快を覚えてしまい、一部を書き直したものの、さきほどまで落ち込んでおりました。自分で読んで不快になるなら、読んでくださった方はどれだけの……と。それでもスキを残してくださるみなさまに、感謝しかありません。
 まだまだ未熟な書き手でございますので、ご不快を感じられたらどうぞそっとページを閉じてくださいませ。今後は文章に対して、よりしっかりと向かってまいります。
 

 今日の当地の日没は16時30分。日の出は6時23分ですから、日足が本当に短くなりました。日が落ちれば寒さもひとしお。
 どうぞみなさまもあたたかくお過ごしになれますように(´ー`)ノ

 

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