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仮言三段論法

これまで三段論法について解説してきました。

これまでの記事で紹介した三段論法は「定言三段論法」と呼ばれるものです。

今回の記事では仮言三段論法について解説したいと思います。





仮言三段論法について


定言三段論法は前提は真である必要がありましたが、仮言三段論法では前提は真偽が分からない仮説となります。

「もし〜であれば」「仮に〜だとすると」といった具合に前提に仮定を置きます。

前提は仮定なので真偽不明であってもいいですし、あくまで仮の話なので偽であっても構いません。

仮言三段論法には Pure と Mixed の2つの形式があります。



仮言三段論法の形式(Mixed)


Mixed タイプの仮言三段論法は大前提のみが仮定です。仮定で用いる2つの概念の関係は包含関係である必要があります。

小前提で、仮定の前件か後件のどちらに当てはまるか、または当てはまらないか、を決定します。

小前提が肯定命題のとき

以下は小前提で大前提の前件を肯定したときの例です。

大前提:もしPならQである
小前提:Pである
結論:ゆえにQである

例:
もし羽があったら自由に空を飛べる
羽がある
ゆえに自由に空を飛べる


この形式は、前件肯定(モーダス・ポネンス)と呼ばれます。


小前提が肯定命題である場合は後件を肯定してはいけません。

以下は後件を肯定したときの例です。

例:
もし羽があったら自由に空を飛べる
自由に空を飛べる
ゆえに羽がある


自由に空を飛べるからといって羽があるとは限りません。後件肯定の虚偽という誤謬になります。


小前提が否定命題のとき

小前提が否定命題である場合は以下のような形式になります。

大前提:もしPならQである
小前提:Qではない
結論:ゆえにPではない

例:
もし羽があったら自由に空を飛べる
自由に空を飛べない
ゆえに羽がない


PならQと判断できるということは、PはQに包含されています。

Qの内側にPがあるので、QでなかったらPではないと判断できるのです。

この形式は、後件否定(モーダス・トレンス)と呼ばれます。


小前提が否定命題のとき前件を否定してはいけません。前件否定の虚偽という誤謬となります。

Qの外延はPだけとは限らないため、PでなかったとしてもQである可能性があるためです。

以下は前件を否定した例です。

例:
もし羽があったら自由に空を飛べる
羽がない
ゆえに自由に空を飛べない


一見すると妥当な結論だと思えるのですが、羽がないからといって空を飛べないとは限りません。フライボードのような装置を使えば自由に空を飛ぶことができるでしょう。


まとめ

まとめると、Mixed タイプの仮言三段論法では、大前提が仮定で、小前提が肯定命題の場合は仮定の前件を肯定し、否定命題の場合は仮定の後件を否定する必要があります。

小前提と結論はひとつの命題にまとめることが可能です。

妥当な結論を得ることができる形式

仮定:
もしPならQである
結論: PであるのでQである

仮定:もしPならQである
結論:QでないのでPではない


前件を肯定する場合は対象はPの外延にあり、後件を否定する場合は対象はQの外にあり、結論は仮定の対偶になっています。

つまり、対偶とは以下のようなことです。

PならQである
Qではない
ゆえにPではない


PがQに包含されているとき、QでないならQの内側にあるPでないことは自明である、ということです。


また、仮定の前件を否定したときと、後件を肯定したときは誤謬となります。

誤謬となる形式

仮定:もしPならQである
結論: QであるのでPである

仮定:もしPならQである
結論:PでないのでQではない


後件を肯定したときは仮定のとなり、前件を否定したときは仮定のとなります。


包含関係において妥当な推論

仮定か定言に関わらず、包含関係において以下のことがいえます。

PならばQであるとき、

[妥当な推論]

前件肯定:PなのでQである(命題そのまま)
後件否定:QでないのでPでない(対偶)

[虚偽となる推論]
前件否定:PでないのでQではない(裏)
後件肯定:QなのでPである(逆)



仮言三段論法の形式(Pure)


先程は大前提のみが仮定でしたが、この形式では大・小前提と結論がすべて仮定となります。

形式1

大前提:
もしQならRである
小前提:もしPならQである
結論:もしPならRである

仮言三段論法の形式の図


「形式1」は第一格の三段論法です。式は AAA-1 または AAI-1(弱正式)となります。


また、以下のような形式もあります。

形式2

大前提:
もしPならQである
小前提:もしQならRである
結論:もしPならRである


結論は同じで、違いは大前提と小前提が入れ替わっている点です。そのため、結論の主語が小概念でなく大概念になっています。


通常、三段論法というのは演繹の推論で一般規則から始まり、個々の事実が続きます。広いほうから小さいほうへ進んでいくわけです。

したがって「形式1」のように「Q → R、P → Q」と外側から中心へ進んでいくイメージなのですが、仮言三段論法の命題は仮定ですので真偽を慎重に扱う必要がありません。

したがって「形式2」のように「P → Q、Q → R」と帰納的に小さいほうから広いほうへ展開していくことが可能なのです。この点が大きな特徴だと思います。


具体例

では、それぞれの形式に具体的な命題を当てはめて見ましょう。

P:羽がある
Q:自由に空を飛べる
R:車が不要になる

[形式1]
もし自由に空を飛べるなら車は不要になる
もし羽があったら自由に空を飛べる
もし羽があったら車は不要になる

[形式2]
もし羽があったら自由に空を飛べる
もし自由に空を飛べるなら車は不要になる
もし羽があったら車は不要になる


「形式2」では、この結論の後に更に仮定をつなげることが容易です。

車が不要になれば排気ガスが減る
排気ガスが減れば環境問題が改善する


このような帰納的な展開は、これまで紹介した定言三段論法とは異質だと思いますが、何かを考える上で具体例なものから一般法則を見つける機能的なアプローチは仮説を提唱する上で重要なことです。



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